プロローグ
今回は主人公の両親がメインのお話しです。
主人公が生まれる前のあらまし。
主人公ほとんど出てきません。
拙い文章ですがよろしくお願いします。
※今後の展開のため王とカティアの年齢を修正しました。
※大幅修正いたしました。
一人の、まだ少女といっても差し支えない年齢の女の子が剣を両手でしっかりと握りしめて振っている。
その様ははっきり言って彼女には似つかわしくない。
麻のズボンにストレートな黒髪を後ろで無造作に一つ結びしただけの格好をしているが、十人いたら少なくとも7,8人は美人だという顔つきをしていた。少し釣り目ではあるが切れ長の目にすっと通った鼻筋、薄い唇にサラサラのストレートヘアをした、まだ少し幼さの残る少女が剣を一心不乱に振っているのだ。しかし、剣筋はぶれることなく彼女が日頃から剣を扱っているとわかる。
そんな少女が剣を一心不乱に振っている光景は見慣れないものだ。
そもそも彼女の身分と場所を考えればありえないといっても過言ではないのだが––––––––––––
––––––ここはハイリヒ・ヴィ・ヴァーチェ王国、その王城にある庭の一角だ。現代日本とは異なりいわゆる剣と魔法の世界。
そして剣を振っていた彼女はこの国の第一王女である。その名をクロエ・ド・ボーヴォワール。この国の王位第一位継承者である。
なぜ、一国の王女がこのような姿で必死に剣を振っているのか、その理由は彼女の出生に纏わることだ。
さて、まずは彼女の両親のことからお話ししようか。––––––––––––––––––
(やはり、来るべきではなかったかしら・・・。)
壁の花となりながらそんなことを考える。
今日はハイリヒ・ヴィ・ヴァーチェ王国の現国王であらせられるルイ・ヴィクトル・ホワ・ボーヴォワール陛下が25歳になられる日だ。そのため、王城ではそのお披露目としてパーティーが開かれている。
王の誕生パーティーということもあり各地から貴族や豪商が参加していた。
王家主催の誕生パーティーを貴族が断わることはできないが、当主もしくは当主代理が出席すれば一族が全員参加せずとも問題はない。とはいえ、年頃の娘は将来の伴侶となる人を探したり、貴族にとって情報とはとても重要なものであるためそれを得ようとし一家で参加する家も多い。
しかし、今回は現国王の側室探しということもあり、より一層の人数となっている。
女だけで身を立てるのはこのご時世とても難しく当主が女性というところもゼロではないが、非常に少ない。それに比べ、王の側室になり寵を得ることができれば、女ではあるものの身を立てることができる。また、生家から王子が出る可能性もあるとなれば、年頃の娘を持つ父親はこぞって娘を着飾らせパーティーに連れてくるだろう。さらには王の顔が非常に整っていることも娘たちにとっては非常にうれしいことである。
その中で、壁に寄り添う様にして立つ彼女は少し、いやかなり浮いていた。
彼女の名前はカティア・ビューロー。現在17歳の花も恥じらう乙女であるが、会場にいる同年代の少女達のように殿方に、あわよくば王に見初めてもらおうと張り切る感じはまるでない。
着ていたドレスも非常によく似合っていたが見るからに型が古く今回のためにわざわざ仕立てたものではないことは明らかで、化粧も彼女の儚さをぞんぶんに引き出しているものの同年代の少女たちと比べるとかなり薄化粧である。
彼女がパーティーなどの人が多いところが苦手であることも一つの要因ではあるが、何より自分を着飾るためだけに貧しい我が家のお金を使いたくなかったのだ。
カティアの生家は伯爵家である。
昔の祖先が立てた手柄によってその爵位を賜ったが、それ以降は特に大きな手柄もなく少しずつ領地も縮小し伯爵位としてはかなり貧しいほうだ。
使用人の数も必要最低限しか今はおらずカティアは生まれてから自分の身の回りのことはほとんど自分でやってきた。それは貧しいだけではなく、カティアの父である現伯爵が無駄を嫌う人間だったことも挙げられるのだが。
実際彼女の父であるビューロー伯爵はかなり有能な人物である。
今まで衰退の一途をたどるばかりであったビューロー家を立て直したのは間違いなく彼である。
あそこまで落ちぶれたのは前ビューロー伯つまりカティアの祖父がかなりの浪費家だったせいだろうが、それを反面教師に父は非常に倹約家になった。
今では、小さいとはいえ領地の人たちからも慕われるている。
今回のパーティーには一家で参加しているが、今後の伝手を作るためだったりする。
今までパーティーには身内のものしか参加したことのなかったカティアが来ているのは自分も少しでも力になろうと思ったからだった。
しかし、日頃から体が弱く人の多いところを苦手としていたカティアは始まって早々に気分が悪くなり壁に並べてある椅子に腰かけているだけとなってしまった。
両親や叔父叔母従兄たちが自分の領地の特色を売り込んでいく様を遠くから見ることしかできないことが不甲斐なく落ち込んでいたのだ。
(やっぱり、お家でおとなしくしているべきだったわ。みんなに迷惑かけてしまうだけになるなんて。)
親しくしている人達への挨拶は最初に回ったので問題ないはずだ。
しばらく休んだら帰ろう、そう思っていた時ふっと視界が陰った。
(っ!!・・・こんなに人が近くに来るまで気づかなかったなんて・・・)
こういう場所での処世術などは当たり前であるが一通り教え込まれている。
また、父は自分の代で爵位が終わっても私が生きていけるように、と貴族の子女としてはありえないようなことも学ばせてくれた。
そんな父の顔に泥を塗るわけにはいかない。
王家のパーティーで考えに耽っていたことを悟られないように微笑みを浮かべて顔を上げる。
視界に入ってきたのは暗い緑の瞳に赤銅色の髪、少し釣り目で唇の薄い鼻筋の通った美丈夫だった。
緑色の瞳が示すものそれは王家の血を引いているということ。さらに赤さびのような珍しい髪色をした人となればこの国には一人しかいない。
そう、その人こそが我が国の主、ルイ・ヴィクトル・ホワ・ボーヴォワール陛下である。
カティアは今回のパーティーに参加したことを心の底から後悔した。
伯爵家の娘とはいえ今の我が家はその中でも最底辺。
そんな家の娘になぜ陛下が興味を持ったのかはわからないが、面倒なことにしかならない。
王の寵愛を望む人なんて山のようにいるのだ。
しかし、逃げたくても逃げることはかなわない。
相手は王族だ。逃げるなんてことをすれば不敬罪に問われることになる。慌てて椅子から立ち上がり、カーテシーをすると、
「具合でも悪いのか?」
抑揚のあまりない声で無表情に紡がれたその言葉はカティアの身を案じるものであった。
そのことに少しばかり驚きながら答える。
「ご配慮痛み入ります。気分が優れませんでしたので休憩しておりました。」
そう言うと、「そうか。無理はするな。」とだけ言ってカティアのそばから離れていった。
頭を下げて見送った後、周りからものすごい視線を感じる。
今すぐにでも座り込みたいが今弱気なところを見せれば目を光らせている彼女たちに喰われてしまうだろう。
陛下が近くにいたことに気づいたのかすぐに母が近寄ってきた。
母に促されるようにしてそのまま二人で会場を後にする。
迎えの馬車に乗り込んで漸くカティアは一息つくことができた。
母が心配そうにこちらを見てくるので、事のあらましを話す。
王から話しかけられるということは非常に名誉なことだが、私は今回のことでビューロー家が周りの貴族から妬まれたりしないかと心配なのだ。
話し終えた後、母は優しく「大丈夫よ。それよりも、早く帰って休みなさい。疲れたでしょう。」と言ってくれた。
カティアは王都にあるビューロー家の別荘に帰りついてベッドに入ってからも今日の自分のせいで今後ビューロー家が妬まれたりしないだろうか、とか参加したのに全くと言っていいほど役に立たなかったどころか面倒なことを引き込んでしまった、と考えてなかなか寝付けなかった。
〜王城のとある場所〜
王城のとある一室に一枚の紙を持った男が血相を変えて駆け込んできた。そして室内の男性に対して詰め寄るように声を上げる。
「ヴィック、これはどういうことですか?」
「どうもこうも、今代の〜伯爵は大変優秀な人材だ。確かに多少落ちぶれてはいるが大した問題ではないだろう。それに何よりも〜家の領地は治水整備が他に比べはるかに進んでいる。さらには''学び舎”なるものを領内に作っていると聞く。
その技術を利用するにあたって一番手っ取り早い方法を取ったまでだ。何も問題はない。」
それに対し焦るでもなく冷静にこの国の利益になる事を一番に考えた自分の意見を述べる。
自分の取った行動に対してこれ以上は意見を言わせないように、少しつり目の瞳でギロリと睨みながら…。
王の誕生パーティーから暫く経ったある日。
ビューロー伯爵家に王家より一通の手紙が届いた。
内容はビューロー伯爵に参内せよとの簡素なものだった。
王から伝えられたことは、簡潔にまとめると娘に寵姫としての立場をやるから領内で行っている治水整備の技術と”学び舎”について詳しく教えて欲しいという事だった。
ビューロー伯は娘の気持ちもあるからと一度持ち帰ったが、王からのお願いという体裁を保っていたがもはや命令である。
一貴族に刃向かう事などできるはずもなく、最終的にはその条件を飲むしかなかった。
ビューロー伯から話を聞いたカティアは一貫して
「それがお父様の、家の為になるのであれば私は嫁ぎます。それが貴族の子女として生まれた私の役目ですから。それに、陛下の事は大変好ましく思っております。だから、安心してください。」と
ビューロー伯が心配になるのも無理はない。
陛下は政治家としての腕は確かに良い。
早くに先王を亡くし、弱冠19歳にして即位されたとは思えないほど、賢王としてめきめきと頭角を現していた。
しかし、娘を愛する親としては陛下の側室など気が気ではないだろう。権力が欲しいと考えているものであれば、迷いなく飛びついたかもしれないが…。
正妃様は我が国の一、二位を争う名門家出身だ。
そんな彼女を差し置いて寵を得るなど、娘の苦労が思いやられる。
ただでさえカティアは体が弱いのに。
しかし、そんな伯爵夫妻の胸の内とは裏腹に、とんとん拍子に婚約は成立した。
今日はその輿入れの日である。
「カティ…。「大丈夫ですわ、お父様。私は貴方の自慢の娘ですもの。」
父が何かを言おうとしたのを遮り大丈夫だと、笑顔を浮かべて言う。
婚約話が出てからというもの、父がカティアに常々言っていたこと。
「カティ、お前が嫌なら今回の話は無かったことにして貰う。だから、嫌なら言いなさい。」
父がそう言ってくれたことは非常に嬉しかった。
自分を守ると言ってくれて嬉しかった。
しかし、王からの命令に背けばビューロー家はタダでは済まないだろう。
陛下は政治の才覚はあるがそれ故に非常に残酷な人だ。それに後宮は正直カティアにとって生きにくい場所であることは確かであった。
それでも、カティアは臣下として王のことを尊敬しており、家の為に子女が尽くすのは当たり前である。
だから今回のことを受けることにした。
恙無く輿入れが終わり、カティアは無事後宮に入った。
輿入れから3年後、カティアは妊娠した。
この3年間は激動だった。
ビューロー家の領内で行われていた治水整備の技術が国全体に波及され、また、学び舎が実験的ではあるが漸く導入された。
カティアは今や王の寵姫として有名だ。
そして、カティア懐妊の報せも国中に広まった。
その知らせに国中がめでたい事だとお祭り騒ぎである。
正妃様は陛下が即位されてすぐに輿入れしているが、まだ御子が無かった。妊娠したと言う報せも未だに聞き及んでいない。
だからだろうか、側室とはいえ寵姫が御子を身籠ったという話はすごい勢いで人伝に国中に響き渡った。
国にとっても激動の3年間だったが、カティアにとってはそれ以上に激動の日々であった。
陛下の寵姫という事で、生家であるビューロー家は今や一大貴族となっている。
領地も昔のように広くなったが、良い事ばかりでは無かった。
正妃派の貴族達からの嫌がらせや妬みなど挙げればきりのないほどだ。
カティアも何度か殺されかけたが、護衛の騎士達のおかげでなんとか無事である。
しかし、カティアにとって一番大変だった事は側室として人に傅かれる日々の方だった。
今まで、伯爵家令嬢でありながら身の回りの事をほとんど自分でしてきたカティアにとって、王宮での暮らしは慣れなかった。
そんな彼女の様子を髪色が薄いグレーである事から正妃様は鼠と言って蔑んでいた。
そのような中で必死に生きていた彼女は懐妊した事でようやっとその暮らしから解放され、馴れ親しんだ故郷であるビューロー領に帰って来ていた。
王宮は聖なるところであり、出産に伴う大量の出血は穢れとされているためである。
ビューロー領のみんなに温かく迎え入れられ、カティアは無事、女の子を出産した。
髪は暗いグレーで一見黒にも見える。瞳は王家の証である緑だが、深い緑なので黒に見えるが、光が当たるとキラキラとしてとても綺麗な色をしていた。
目鼻立ちは父である王に似たのか、少しつり目の切れ長の目にすっと通った鼻筋、薄い唇である。
きっと将来は美人だと言われる部類だろう。
カティアは赤子を抱きながら満足そうに微笑えんだ。
読んでいただきありがとうございます。




