おおかみさんの物語
「昔々、狼さんがいました」
夕陽が昇る公園で。
僕はそう語る。
そう、それは昔の物語。
「狼さんは、とても裕福で、食べるものに困っていませんでした」
狼さんが言えば、何でも手に入る。
狼さんが言えば、たとえざんこくなことでも行われる。
小さいころから、成人を迎えるまでは。
成人の日。
狼さんは、ある日道端を歩いていたところ、とてもかわいらしい、年若いの女の子を見つけました。太陽のように赤い髪にふっくらとした頬をした女の子に、狼さんは一目ぼれをしました。
すぐさま家来に言いつけてその女の子を連れてくるよう命令をしました。
「お前を俺の嫁にしよう」
そう宣言すると、その年若い女の子は首を振りました。
「いいえ、狼さん。私はあなたの妻にはなりません」
はっきりと断られた狼さんは、一瞬唖然した後、激高して怒鳴りました。
「なぜだっ! なぜ断る!」
「私はあなたのことが嫌いだからです」
そう言うと、一歩踏み出して狼さんに近づく。
「狼さんは民のことを考えておりません」
また一歩近づきます。
「私たちから食料を奪います。私たちから命を奪います」
一歩、また一歩と狼さんに近づきます。ここで、ようやく狼さんはこの女の子が起こっていることに気付きました。
しかし、狼さんはどうして怒っているのかわかりません。
なぜなら、彼は自分が満足すればそれで良いからです。相手の気持ちを考えることをしないからです。
「もし、私の願いが聞き届けられるのであれば、私はあなたに身を捧げましょう」
「だまれっ! オレが満足すればそれでよいだろう! お前たちはまんぞくだろうっ!」
「いいえ、いいえ」
女の子は悲しそうな、そして狼さんを憐れむような表情をして身を翻しました。
「さようなら、悲しい人」
そう言って去ろうとする女の子をただ見守るわけがない狼さんは、そばにいた衛兵に唾をまき散らしながら言った。
「捕まえて牢屋に入れてしまえ!」
狼さんは女の子を牢屋に入れてしまいました。
暗い、暗い牢屋の中。
女の子は祈りました。
「おねがいします、かみさま。どうか狼さんを正しい道に進ませてください」
女の子は牢屋の中で祈ったのは、自分の身のことではなく、狼さんの事でした。彼女は心優しい女の子です。人のためにどんな努力も惜しまないのです。
ずっと、ずっと。
祈って、祈り続けて。
そろそろ倒れてしまいそうなとき。
上から光が舞い降りてきました。その光はまばゆく牢屋を照らします。
「心優しき少女よ。そなたの願い、叶えてしんぜよう」
すっと身が軽くなり、目をぎゅっとつぶったあと恐る恐る開くと、そこは狼さんの目の前でした。
「お前、どうやって!」
怒鳴り散らす狼さんでしたが、そのあとに言葉は続きませんでした。なんども口をパクパクとさせて、喉を抑えます。どうやら声がでなくなったようです。
「そなたを正しき道へ」
どこからともなく声が聞こえたかと思うと、狼さんは光に包まれて消えてしまいました。
「私は、私はこんなこと望んでいません!」
女の子は怒りました。
すると、女の子も一緒に光に包まれてしまいました。
そのあと。
「少女が望んだものは、狼と同じ道を行くことであろう」
そのあと、二人を見たものはいません。
「もう終わりー?」
夕陽が昇る公園で。
僕は「おわり」と締めくくる。
「このあとはー?」
「そのあとはね……」
「あ、大上さん」
その声に振り返ると、黒髪を夕陽で真っ赤にそまった少女がいた。
「こんにちは」
「こんにちは」
僕らははにかみながら挨拶をする。
「このあとはね」
子供たちに振り返ったあと、告げる。
「もちろん、ハッピーエンドだよ」
それが、彼女が望んだ答えなんだから。
お読みいただきありがとうございます。
おさらい:かみさま、そんなこと望んでないよ。