裏切りは甘く
「即興小説トレーニング」で執筆したものです。
「なあ、いいだろ?」
耳元で彼――――私の夫が囁く。その超絶美ボイスが背筋をぞわぞわっと駆け上がるけど、だめだ。
ここでほだされるわけにはいかない。
「いや」
「ええ~、そんなこと言わないで、ちょっとだけ……ね」
彼の唇が近づく。触れる前に胸を押し戻して離れると彼は悲しそうな顔でつぶやいた。
「なんでだめなの?」
なんで? それをあなたが聞くの?
あなたの過去の裏切り、私はまだ立ち直っていない。仕事から疲れて帰って来た深夜に、愛する夫が私を裏切り約束を破っていたことに気がついてしまったのだ。その事実を知ったときの衝撃は――――
「ねえ、美保。ひょっとしてまだ怒ってるの? あのときのこと」
「――――怒ってないとでも思った?」
「やっぱ、怒ってたんだ」
わかってるならするなよ。その念をこめて睨みつけてやった。
なんて独りよがりな男なんだろう。そんな男と結婚したのは確かに私だけど、だからといって何もかも許せるかと言ったら大間違いだ。
ぷいっと顔をそらせてやったその時、彼がフォークを持った私の手を両手でそっと包みこんだ。
「悪かったよ、昨日のプリン食べちゃったのは。お詫びに明日『パティスリー・ポマラ』のプリン買ってくるから」
「――――約束だよ?」
お高いプリンで詫びを入れられては仕方ない、許して進ぜよう。私は手に持ったチーズケーキをフォークで心持ち大きめにカットして彼の口に入れてあげた。さっきから「一口ちょうだい」とねだり続けていた甘いもの大好きの夫は、とんでもなく満足そう。
結局こうやって許しちゃうんだよなあ。冷蔵庫に入ってた私のプリンを勝手に食べちゃうなんて、わたしにとってはひどい裏切りなんだけどなあ。
これを惚れた弱みというのだろうか。
もぐもぐと幸せそうにチーズケーキを食べながら彼が言う。
「でも美保、連日スイーツ食べてたら太るよ?」
前言撤回。
許さん。
今回はあらすじ詐欺ではないと思っています。
マンネリですみません。
お読みいただいてありがとうございます!