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桃色コメディ。

honeyな一日。

作者: 桃色 ぴんく。

「お会計、お一人様ずつですと、821円になります」

 私は、財布の中をチェックする。あ、ピッタリありそう。

500円玉1枚と100円玉3枚、10円玉2枚、1円玉1枚を財布から出して、レジ横の受け皿に乗せた。同時に、隣に立っていた職場の後輩が500円玉を1枚置いた。

 その時、なぜだかレジに立っていた店員が、レジの中から小銭をジャラジャラと取り出し、私たちがお金を置いた受け皿の上に、乗せてしまったのだ。

「えっちょっと何してんの?払ったお金がわからなくなっちゃうでしょ!私は821円ちゃんと出したけどね」

 私が言うと、隣の後輩も言う。

「私も821円置きました」

 えっうそ・・・あんたまだ500円しか置いてないじゃない。

「お二人様ともまだいただいていません。お会計はお一人様ずつで821円でございます」

 いただいていませんってなによ!私は確かに置いたのよ!

「何言ってるの!?確かに払いました!821円!!!!!」

 そうよ、確かに821円払ったんだから!!!



 そこで、私は目が覚めた。なんだぁ~、夢だったのか。

「821円ってなんなの」

夢の中の821円という数字が妙に気になる。

何を食べて821円払ったんだろ。食いしん坊な私はそこが気になって仕方がなかった。



「あっ!」

 いけない、仕事に遅れちゃう!私は慌てて支度を始めた。

「危うく乗り遅れるとこだった・・・」

 満員電車に揺られながら、ふと電車内の広告が目に留まる。


”目の疲れにはブルーベリーサプリ 今ならお試し価格821円”


 確かに。ブルーベリーをそのまま食べるよりサプリのが摂りやすいもんね。って、あれ、また821円なんだ。なんなの、この中途半端な値段設定。

もしかして、夢の中の821円は、このサプリを買えというお告げなのかな?なんてことを考えながら、職場に向かった。



 会社に着いて、私は気付いた。そうだ!今日は月に一度の全体朝礼の日だった。危ない危ない、こんな日に遅刻したら何を言われるか。

 そして、朝礼が始まり、異動でこの会社にやってきた社員の紹介が始まった。へえ、3人異動してきたんだ。あ、あの人結構イケメンじゃない。どこの部署だろ。

 朝礼が終わり、ふと職場の壁を見ると、さっきの3人の紹介の社内新聞に載っていた。仕事を始める前に、ちょっとだけ目を通す。あのイケメン君は29歳なんだ。

「あ・・・」

 新聞の締めくくりの文章に私は少し驚いた。



 ”3人の新しい戦力が加わって、総勢821名での新たなるスタートです!”



「また821だわ」

 夢のお告げは、新しい社員が来ることの予告だったのか。もしかしたら、イケメン君が私の未来の旦那様だったり・・・?私はまだ独身の31歳。まぁ、可能性は無きにしも非ず。



 その後も「821」の数字が私にまとわりついた。

品川しながわさん、これ、コピーお願い」

「はい、何部しましょうか?」

「そうだな・・・821部。多いけど、よろしく!」

 また「821」か。ああ、社内の人に配る書類なのかな。なら、821部でもおかしくないわ。ちょっと考えすぎだわね。もうあんまり考えないようにしよう。

「品川さん、悪いけどここに電話してこの説明してもらえる?」

「はい、わかりました」

 簡単な商品の説明だったので私にも出来る。受け取った電話番号に電話をかける。

「えっと、821の・・・」

 ああ、また「821」だ。考えないように、と思ったけどやっぱりこの数字、私に深く関係があるのかも知れない。



 その後も、お昼ご飯を食べようと社員食堂に行くと、『本日のスペシャルランチ 821円』だったり、一緒にご飯を食べていた、夢の中で500円しか払ってなかった後輩が、

「昨日、荷物が届いたら、中にプチプチが入ってて~暇つぶしにプチプチしてたんですけど、超暇だったし数を数えてみたんですよ~」とか言うもんだから

「まさか、821個あったとかじゃないでしょうね」って言ってみたら、

「ええ???なんでわかるんですか!そうなんですよ!821個もあったんです!」とか言うし。

やっぱり、何かにつけて「821」の数字が私の周りで関係しているようだった。



 仕事が終わって、会社を出ようとすると、1台の車が私の横を通り過ぎる。ちらりと見えたナンバーが、

「え?821・・・?」

「あ、品川さん!お疲れ様です!」

 少し行き過ぎた位置で、窓を開け、私に挨拶してくれたのが、あのイケメン君だった。私の名前、もう知ってたんだ。私は嬉しくなった。車のナンバーも「821」だし、もしかしたら、本当に『運命の人』だったりして!

「お疲れ様です。また明日」

 焦らなくていい。最初は挨拶だけでいいのよ。気をつけて帰ってね、未来の旦那さま。走り去る車を少し立ち止まって見送っていたら、間違いに気が付いた。

「あ・・・812だった・・・」

 イケメン君のナンバーは「821」ではなかった。単なる私の見間違い。ってことは、未来の旦那様説ももう違うかも知れない。私はとぼとぼと帰り道を歩き出した。



 最寄り駅で降り、スーパーに寄って晩御飯を買って帰る。まだ「821」の数字は続いていて、何気に買った買い物の合計が821円だった。買った物は、惣菜コーナーの冷麺、おにぎり、温野菜サラダのパックだった。

 スーパーを出ると、『宝くじ』ののぼりが目に留まった。

「そうだわ、これだけ「821」がつきまとうんだもん。ナンバーズ3買ってみよう」

 私は「821」の数字をストレートで買ってみた。発表は今日の分には間に合わないが、これだけ縁がある数字、なんか当たる気がする~。



 家の前まで辿り着いた時、目の前に一台の車が停まる。

「あっ!」

 今度こそ、ナンバーは「821」だった。もしかして、今度こそ運命の人が!?

「Oh! my honey!」

 えっ?まさかの外人?降りてきたのは、顎まで髭がモジャモジャの赤毛の外人さんだった。ええ~~、この人が運命の相手なの??

「my honey!,honey!」

 見知らぬ外人が抱き付いてくる。これがいわゆるハグというものなのか。わかったから、そんなにハニーハニー言わないでよ。

「あっ」

 honey=ハニー=821

「また「821」だわ!」

 やっぱり、この外人さんが私の運命の相手なんだわ!

と、思ったその時、背後から金髪の外人の女性が現れ、何やら二人で英語で話した後、私に向かって

「sorry・・・」と、呟いて、金髪女性を車に乗せ、走り去ってしまった。

 その場に残された、スーパーの袋を手に持った独身女。

「なんなのよ、ただの人違いかい!」



 なんだか虚しくなって歩く帰り道。公園の近くを通った時に、時計が見えた。時計の針は8時21分を指していた。

「もういいってば!」

 


 マンションについて、エレベーターを待っていると1人の男の人と一緒になった。

「何階ですか?」

 どうやらエレベーターのボタンを押してくれるらしい。

「あ、すいません。8階でお願いします」

 ちょうど階数ボタンを押す真ん前に大きな男の人が立ったので押しにくかったのだ。それにしても、今日は謎の「821」に振り回された1日だったな。8階まではちょっとだけ時間がかかるので、私はエレベーターの壁にそっともたれて、今日の出来事を軽く振り返る。

「お先に」

 5階で男の人が降りていって、一人になる。さ、帰って冷麺食べなくちゃ。




 ヒールの音がコツコツと通路に響き渡る。夜はとても静かだ。

部屋の前についた私は、鍵を開けようとして、何気に自分の家の表札を見た。


 821  品川


「ああっ」

 当たり前すぎる日常の中で、自分の住んでいる部屋の番号など、深く意識もしていなかった。

「なんだ・・・これだったのか」



こうして私の「821」な一日は、なんだかスッキリして幕を閉じた。



              ~honeyな一日。(完)~

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― 新着の感想 ―
[一言] プチプチを数えたところは、思わず笑いました。 感想を書くだけのことが、ついつい他のことを書きそうになりますので、率直に。。。812だったらヨーゼフとかペーター辺りで突っ込みが欲しかったです。…
[一言] 外国人のハニー発言で吹き出しました。 エレベーターに乗った辺りで、おや、これ、ひょっとしてホラー的な終わりになるんじゃないだろうか、と思いましたが、安心できるオチでした。 面白かったです。
[良い点] 徹頭徹尾、妄想の虜になる女性ですね。 ドキドキ・ワクワクに続くトボトボ 人生とは、そういうものかもしれません。 少しづつ女性が働くときの意識を学ばせてもらっています。 ごちそうさまです…
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