六話
所々街灯のある住宅街を二人は歩いていた。
「さっきのピアスの話だけど」
悦子が小さな声で話始めた。
「あの日ね…彼と喧嘩して…飛び出して…そしたら片方無くしちゃった…」
「えっ…」
彼は突然の話に返す言葉が見つからなかった。
彼女の方を見ると悦子はうつむいていた。
「ゴメン、変なこと聞いちゃったね」
彼は申し訳なさそうに謝った。
「うぅん…もういいの」
彼女は彼の方を見て微笑んだ。
不意に彼の左手を何かが微かに触れた。
彼は黙ってそれを握りしめた。
彼女の体温が左手越しに伝わってきた。
「あっ君少しは歌上手になった?」
「いいや…なにか歌って欲しいものでもあるのか?」
「おっ、珍しく感が冴えてるんじゃない?」
「何がお望みですか?」
「ベタなラブソング!」にこやかに彼女が答えた。
「お前、人を困らせようとしてるだろ?」
「いいでしょ!歌ってよ」
「…仕方ないなぁ…」
彼は自信無く答えた。
「その前にピザとたこ焼きと海賊サラダ食べよっ」
「夜食べると太るぞ」
「別にいいもん」
その後、二人は他愛ない話をしながら歩いていった。
ふたりはカラオケボックスで食事をしながら、歌を歌った。彼は彼女のリクエスト通りラブソングを歌い。いつもより悦子は上機嫌になっていた。
そして彼女は彼に質問をする。
「ねぇ、あっ君私のことどう思っているの?」
「どうおって、いきなり」
「ちゃんと、答えて」
彼女の顔は真剣だった。
彼は悦子に好意を抱いていた。しかし、元妻に未練が残っていた。そのため彼は出来るだけ恋愛の事は考えないようにしていた。
「好きだよ」
彼は静かに答えた。
「それはこの間聞いた」
「ゴメン…それ以上は…」
「そっか…まだ奥さんの事…愛してるの?」
悦子は彼の顔を見ながら聞いてきた。どこか淋しげな表情をしていた。
「きっとそうだとおもう」
彼は弱々しく答えた。
「何よ!はっきりしなさいよ!」
彼女は強い口調で言った。
「私…あっ君が欲しいの」
そう言って彼女は涙を浮かべながら、傷のついたスマホの手を伸ばした。
「あァ」
彼は意識を失った。
「おいで、私の愛しのあっ君」
彼女は微笑みながら両手広げ彼を誘った。
スマホの画面には『愛』の文字が映し出されていた。
彼は彼女の胸に顔を埋めた。
微笑んでいるはずの彼女の頬には一筋の涙が伝っていた。それから二人は彼女のアパートに行った。
彼は靄のかかった意識の中で悦子を求めた。
二人はお互いの存在をたしかめあった。
「愛してる」
「あっ君それ何回目?」
「本当に愛してる」
「ここまでくると聞き飽きてくるわ」
悦子は半ば呆れ顔になりスマホに手を伸ばした。
画面上には何も表示されてなかった。
「えっ?」
彼女は少し驚いた顔をした。
「『emotional control』は一時間しか作動しないんだよ…もう時間切れだよ」
彼がにこやかに言った。
「そんな…」
「最初はそんなものついてなかったんだけど、えっちゃんが使いすぎないように制限時間をつけたんだ」
「うそ…だったらまた…」
悦子がまた『emotional control』を作動させようとすると、彼がそれを奪った。
「えっちゃん、俺…」
そう言いかけて、彼は悦子の唇を奪った。
彼女は一瞬目を見開きそしてゆっくりと目蓋を閉じた。
『あっ君ずるい…』悦子は心の中で呟いた。
完
やっと完結です。
思っていたより手間取ったしまいました…
最後まで読んでいただき有り難うございました。