五話
三話完結のはずがズルズルと続いていますが、お付き合いください。
感想とか頂けると有りがたいです。
大学の研究室に二人の姿があった。
午後八時を過ぎていた。
「そろそろ終わりにしようか?」
彼は隣でPCの画面を覗きこむ悦子に声をかけた。
「賛成…え〜と、あっ君今日はなんの日か覚えてる?」
「なんだ、藪から棒に…」
そう言って彼女の方に、目をやって、慌てて視線を天井に向きなおして考えこむ振りをした。
彼が横を向くと、PCを覗きこむ彼女の胸元が椅子に座っている彼の目の少し上にあり、嫌でも胸元に視線がいってしまう。
そこで彼は幾つかの選択肢の中から瞬時に天井を選んだ。
しかし彼の判断は詰めが甘かった。
立ち上がった彼女の胸が彼の視界に現れる。
「のわっ!」
彼は驚き椅子から崩れ落ちた。
「あっ君大丈夫?」
彼は態勢を立て直し立ち上がろうとする。
悦子が心配して彼に近づく、結果的に彼の目の前に胸が迫ってきた。
言葉なく彼は固まった。
「あっ君、かわいい〜」顔を真っ赤にした彼を悦子は撫でた。
「からかうんじゃない」
「だってかわいぃんだもん!これでモフモフならもっといいんだけどな…」
悦子は無邪気な笑顔を浮かべながら、上機嫌に言った。
「俺は犬かなにかか?」
「違うよあっ君だよ!」
彼はジト目しつから軽く溜め息をついた。
「ハァ……だいたい、なんで俺があっ君なんだ?名前にあの字はないぞ」「それはだって、最初の頃、あっ君しゃべる時に頭にあっを入れてからしゃべるから、なんか気になっちゃって…それであっ君!」
「例えば」
「電話の時は『あっ、もしもし』人に頼みごとするときは『あっ、それとって』とか、忘れ物したときは『あっ、忘れた』などいっぱいあるよ」
自慢げに彼女は言った。
「…そうなんだ…」
「うん…それはそうと今日はなんの日か覚えてる?」
彼女は話題を変えようとすると、今度は彼が話題を変えてきた。
「それより、今日の服装やりすぎじゃないか?」
「そう?おしゃれだと思うんだけどな。」
悦子はポニーテールに
アンダーリムの伊達眼鏡(ブルーライト対応)、胸元が丸く開いた黒のタートルネックタイプのノースリーブサマーセーターにマスタードカラーのスキニーパンツにプラットホームのスニーカーという出で立ちだった。
胸が露出しているのだった。
しかも靴がプラットホームのせいなのか、今日は胸元が意識してなくても、視界に入り込んできた。
「意識しすぎなんじゃない。おっぱい星人さん」
「そんなわけあるか、だいたい二十歳そこそこじゃまだまだ…」
「問題発言だ!セクハラだ!」
悦子は彼を指差し茶化すように言った。
「あのなぁ…ゴメン」
彼は言い訳を言おうとしたが、思いとどまり彼女に謝った。
「ゴメンだけじゃえっちゃんは許さないぞ」
少し恨めしい顔で悦子は言った。
「ふぅ〜、ファミレスでもいくか?」
諦めぎみに彼が提案した。
「う〜ん、この間ファミレス行ったから…カラオケならいいかなぁ…」
「わかった…で、さっきの今日はなんの日って、答えはなんだ?思い当たるモノがない…」
彼は再度悦子に聞いた。
「えっと…忘れちゃった」
「なにそれ?」
「いいから、カラオケ行こう」
彼は悦子に手を引っ張られながらカラオケボックスに向かった。
カラオケボックス向かう途中、二人でコンビニに寄り煙草を買った。
店を出る時、悦子が彼の方に顔を向け少し覗きこむ様な仕草をした。
「う?どうかしたか?」
それを見て不思議に思い彼は悦子に聞いた。
「あっ君覚えてる?」
「なにを?」
「まったく…一年前の夜の事…そこで一緒に煙草吸ったでしょ…」
「……」
「覚えてないんだ…」
「う〜ん」
彼は少し考え込んだ。
「まさか一緒にカラオケ行ったのも忘れたとか?」
悦子は少し不機嫌そうに言った。
「あ〜、思い出した。そうか、一年経つんだ…」
「まったく…」
「そういえば、あの時、なんでピアス片方なかったんだ?」
「あっ君、変なとこだけ覚えてるのね…ここに居るとお店の営業妨害になるからとりあえず歩かない?」
「そうだな」
二人は歩きながら話す事にした。