一話
思い付いたままに書いてみました。感想とか頂けると幸いです。
3話位で完結の予定です
人の感情や精神はどこにあるのだろうか?
脳が司っているのだろうか?
魂は存在しているのだろうか?
自分とは…
また、喧嘩をしてしまった。
トイレの照明の消し忘れという、日常生活のミッションの中では、比較的難易度の低い初歩的ミスである。
それを妻に指摘され、曖昧な生返事という、痛恨のミスをおかしてしまった。
だめ押しに、開き直り、謝りもせず、幼稚な弁解をしたのが、決まり手になり、只今、自宅内で別居中である。
自分の感情をコントロールできたら、こんな事にはならなかっただろう。
脳をコントロールできれば、感情もコントロールできるのだろうか。
脳中にはA系、B系C系神経などの神経系があり、快楽や痛み等の様々な感情に深い関係がある。
そして、隣接する神経系は干渉したり高めあったりするらしい…
神経は情報を伝達する時、微弱な電流が流れる。
複雑な生きた電子回路のようなものだろうか。
いや、電子回路が知らず知らずのうちに脳の造りを模倣していただけなのかもしれない。
もし、脳神経の中に、任意に電流を流すことができれば、自由に脳内麻薬物質をコントロールし感情をコントロール出来るかも知れない。
そうすれば、今晩の肉じゃがを食べられたかも知れない。
「肉じゃが食べたいなぁ」
納戸に机と小さい本棚を置いただけの、仕事部屋に籠城しながら、食事の事ばかり考えてしまう。
とりあえず腹の足しにと机の引き出しからビタミン入りのチョコバーを取りだしかぶりついた。
その後、机の上に数冊の本を広げながら、ノートに幾つかの数式を書き始めた。
些細な喧嘩がきっかけで始まった研究に彼は、のめり込んで行った。
元々個人主義の強かった夫婦の関係は悪化の一途をたどり修復不可能の域に達していた。
そして、彼が半導体メーカーの正社員の地位にいたときは、まだ夫婦らしさが残っていたが、ベンチャー企業の非正規社員に転職したのを期に離婚した。
更に彼は研究に没頭していった。
イー企画 合資会社
彼はそこの企画課に所属していた。
アミューズメントパークのアトラクション開発や家庭用ゲーム機の規格作成が主な業務だった。
しかし彼がいるのは三流大学の研究室だった。
大学との共同プロジェクトに担当者として出向していた。
表向きは『人工知能の開発と用途の確立』をテーマに研究は行われていた。
表向きの研究はあちこちからかき集めたデータを元に捏造した。
「あっ君また変な事してる。」
「………」
「また、無視してる」
「………」
「やだぁ、昨夜の事、気にしてるの。」
「………」
「PCとワタシとどっちが大事よ…」
「………」
「あっそ、PCなんだ、えぃ!」
女学生がディスプレイの電源を落とした。
「なっ何をする!」
「やっとしゃべった、あっ、何がしたいって昨夜の続きかな?」
「じやなくて、何をしたんだと聞いているんだ!」
「あ〜画面を消しただけだけど…」
「だけだけどって、お前な!」
「お前じゃないよ、悦子だもん。えっちゃんでもいいよ。そのうち、お前でもいいかな?」
「はっ、頭おかしくないか?」
「バカだからいいんだもん」
「否定しないんだ」
「うん」
「笑顔でうん、いうな…ったく、馬鹿馬鹿しい
「馬鹿馬鹿いうヤツがバカなんだぞ!」
「お前が言うか!」
「お前じゃないよ、えっちゃんだもん、発音の仕方教えてあげる」
「要らんわ!」
「あっ君、あまり騒ぐと周りの視線が凄いんだぞ!」
「騒ぐって、原因はえっちゃんだろう。」
「あっ君今、えっちゃんって言ったな…やった…」
「はぁ、えっちゃん画面つけてもらえます?」
「は〜い、ポチっとな」
「古」
「あっ、笑った。いい子いい子」
「触るな」
「お懲りんぼのあっ君はこうだ、エィ」
彼女はディスプレイの電源を押した。
「また消しやがったな」
こんなくだらないやり取りが数分間続いた。
「さてと、本題をやりますか?」
まわりの学生たちが帰り始めた頃、彼は鞄の中から記憶媒体を取り出すとPCにつないだ。
隣に立っている悦子の顔から表情が消え始めた。