科学部部長・万屋万里★
「とりあえず第一層突破おつかれさまー!」
ギルドハウスにて三人が紙コップを軽くぶつけ合う。
「くぅー!コーラが飲めるのがこんなにありがたいとは」
打ち上げパーティーセットについてきたコーラを飲み干して、パーティープレートに手を伸ばす。唐揚げにエビフライ、フライドポテト、中央にはポテトサラダが盛られ、別皿にクリームチーズとスモークサーモンのカナッペ。
「キッチンが無いせいで三食とも日替り定食でしたからね」
「日替りとはいえ三食同じはちょっと……んー、このカナッペ美味しい~」
思い思いにパーティープレートを平らげながら三人は今後のことを話し合う。
「二階層に進むまえに念のためしばらくスライムでレベル上げをしますか?」
「その前にポーションだろ、やっぱ。MP尽きたときの回復手段が無いとキツい」
「セーコちゃんの器用ステータスが高かったら解決だったんだけどねー」
調合スキルはあるものの器用が低いせいか失敗率が高く、回復薬を量産出来ず素材の無駄が出ている面々。
「悪かったな、不器用で!」
チッ、と舌打ちしてやさぐれる聖子の肩を「まぁまぁ」と叩きながらユミが宥める。
「いっそ、生産系のギルドが出来てくれればいいのですが……」
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「く……素材が足りないッ!」
クローバー・ガールズの面々が打ち上げパーティーをしていたその頃、校庭に張られたテントの中で悔しげに拳を打つ少女がいた。
「仕方ないですよ、部長。ドロップを集めに行くにも時間がかかりますから。ぼくら、素材や器具にゴールド使いすぎて武器はホウキなんですよ?」
科学部部長の万屋万里 はあちこち跳ねた自分の髪をガシガシと掻きながら溜め息をつく。
「せめてボクの作った初級回復薬を買ってくれる奴がいればいいのだが……」
「まだ皆スライム狩ってる段階ですからねぇ……」
部員の言葉にますます悔しげに眉をしかめる万里。
「これではスキルレベル上げが出来ないではないか!最上級薬をこの手で作り出すボクの野望が……行く行くはオリジナルの薬を作り出したりするロマンがっ」
「薬草を大量に買わずともスライムの核から初級回復薬が作れることが解ったのは良かったんですけど……装備がホウキでは集められる量も心許ないのです。ショップで売却しても二束三文ですし」
万里の熱弁に引く部員はこの場には居なかった。むしろどのメンバーも無念そうに拳を握りしめている。
「よし研究費調達だ。ぼくらの科学部のパトロンを探すぞ!」
そう言うと万里は白衣を翻してテントを飛び出した。
体育館にはショップで売却するより高く買ってもらえる可能性に掛けてアイテムを並べている者がチラホラ見受けられる。パーティープレートを食べ尽くしたクローバー・ガールズの面々は腹ごなしも兼ねて、そんなアイテムを見て回っていた。
まだ第一層しか攻略されていない現状では並ぶアイテムは食券やスライムの核ばかりで目ぼしいものは少ない。
「とりあえずガチャ券を見掛けたら買っておきましょう」
ユミの言葉に二人が同意しつつ、ガチャ券を探して周囲を見渡す。と、突然幸恵が走り出した。
「あー!ポーション!ポーションだ!」
幸恵が駆け寄った先にはブルーシートの上に小さな小瓶が並べられ、横には紙で『科学部製ポーション。初級回復薬100G、初級MP回復薬500G』と書かれている。
「凄い!見て見て二人とも!MP回復薬があるよ!」
幸恵が目を輝かせて言うと、男子部員がはにかみながら応えた。
「まだどちらも初級しかありませんけど……どうです?」
「全部ください」
「……え?」
男子部員がピシリと固まり聞き返す。
「これ全部買うよー。いくら?」
にこにこと嬉しそうに答える幸恵に、男子部員は慌てて立ち上がって叫んだ。
「ち、ちょっとまってください!ぶ、部長ーッ!部長ーッ!金づ……お客さんですッ!」
斯くして、クローバー・ガールズと科学部部長・万屋万里の邂逅は果たされたのだった。