表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/8

教室と銭湯★

ギルドハウスの入り口は体育館を見渡せるようにぐるりと囲む中二階にあった。まるで教室のドアのような引き戸がずらりと並ぶ中から“クローバー・ガールズ”と記されているドアを探す。初日故かまだ名前の書かれたギルドハウスは他には見当たらなかった。



 「ホントにただの教室だねー……」



 ドアを開けると黒板や机や椅子、後ろにはロッカー……とまさに教室と言うしかない部屋が広がっていた。ロッカーはどうやら小さなものが個人倉庫、大きな縦長のロッカーがギルド倉庫として機能するらしい。



 「ギルドハウスは手に入れれば増設出来るようですし今後に期待しましょう」



 増設用なのか教室の脇には短い廊下があり教室の向かいにはきちんとトイレも設置されているのは幸いである。女性ばかりのギルドに女子トイレだけでなく男子トイレも律儀に設置されているのはご愛敬だ。



 「早いとこ風呂を設置してーな」


 「んー……何か代わりに使えそうなもの売ってないかなぁ?」



 幸恵がショップをパラパラと検索する。



【銭湯入浴券/450G】


 一枚で一名入浴可能。シャンプー、リンス、ボディーソープ、ドライヤー完備。タオルはご持参下さい。



 「なんという……至れり尽くせり」



 初期配分されたゴールドで入浴まで賄うのは厳しいかもしれないが、ある程度階層が進んで攻略に乗り出す人が増えればこのくらいの値段なら誰でも利用出来るようになるだろう。元々資金の潤沢な彼女達のギルドには関係無いが……。


 即購入して入浴券を使用すると宙に湯のマークが描かれた暖簾が出現する。三人がおずおずと暖簾をくぐれば、そこは番台が居ない以外は普通の銭湯であった。





 「ふー……きもちいい。そういえばショップは便利は便利なんだけどー……」



 カポーンと効果音をつけたくなる富士の絵を背景にして湯に浸かりながら幸恵が呟く。三人で入るには広すぎる湯船は妙に銭湯を広く見せていた。



 「お金があってもそうそう無双出来ないよね。ショップで便利なジョブやスキルは売ってるけど育てないと意味がないし、売ってる品物も基本的には素材だから回復薬すら作らなきゃ手に入らないもん」



 幸恵の言葉を受けてユミが口を開く。



 「買える装備は全体的に低レベル向けですしね。つまり人から奪った品物を換金してもそれだけではすぐに強くなれないシステム……多くの人に迷宮探索をさせたいなら上手い作りかもしれません」



 「こりゃ、生産にも力入れていかなきゃ後々困りそうだなぁ……ゲームってなら回復薬無しでボス戦とか勘弁だしよ」



 三人は頷き合ってから小さくため息をついた。



 「私たちである程度生産スキル取るとしても、やっぱり生産メインで活動するメンバーも欲しいね」



 「まあまだ初日が終わったばかりですし、これから探しましょう」



 そうユミが締めくくると、気を取り直したように幸恵がさっきからチラチラと気にしていた目の前の二つのメロンに視線を固定する。



 「それにしても聖子ちゃんのおっぱい……ずるい」



 自分の断崖絶壁と聖子の胸を見比べてふるふると震える幸恵。



 「ずるいったってなぁ……結構邪魔だぜ?これ」



 興味なさそうな台詞にガバッと顔を上げ幸恵が聖子ににじり寄るに至り、メロンの持ち主は言い知れぬ危機感を抱いて身を引いた。




 「なんだよ……おい」


 「…………もぐ」


 「は?」


 「もいでやるぅーーーッ!」



 両手で胸を鷲掴みにされて聖子が素っ頓狂な悲鳴を上げる。



 「うひゃあ!?おいやめろっ、どこ触って……ッ!」


 「このメロンが悪いんだーーッ!」


 「ひぁっ!……やめ!揉むな!……って、んなとこ摘まむなぁッ!」


挿絵(By みてみん)



 男性諸君にはお見せ出来ないような光景を横目にのんびりを湯に浸かるユミがクスクスと笑う。



 「あらあら、元気ですわねぇ」



 湯から上がるとショップで買った寝袋に入り早々に寝ることにする三人。ショップには寝具もあったのだがどうやら教室には設置不可のようで寝袋と相成った。


 目まぐるしい一日に自身が感じているより疲労していたのだろう、寝袋に入るとあっという間に三人は眠りに落ちてしまう。










 目覚めると教室というシュールな状況に慣れずに少し戸惑いながらも、コンセントがあったため設置出来た湯沸しポットでお茶を淹れていた最中。



 キーンコーンカーンコーン



 「え?チャイム?」



 お馴染みの学校のチャイムが鳴り響き三人はお茶を持ったままギルドハウスから飛び出した。体育館に出ると他の生徒達も演壇の上にあるスピーカーを見上げている。



 『テステス。只今マイクのテスト中』



 初日に聞いた電子音声がスピーカーから漏れだす。



 『おはようございます。楽しい迷宮ライフ二日目となりました。皆様いかがお過ごしでしょうか?二日目開始にあたりセーフティエリア“校庭(グラウンド)”を解放します』



 そう電子音声が告げた瞬間、校庭へ続く扉が開け放たれた。



 「校庭?」


 「外に出れるの?」


 「そうだフェンスの外の人に呼び掛ければ!」



 生徒達の僅かな希望も束の間。本来は金網だけで通りがしっかりと見えていたはずの校庭のフェンスは白い壁に、青空は不吉な赤紫色の空へと変わっていた。



 『当方としては長期間の生活にはギルドハウスをおすすめしたいのですが、すぐには手に入らない方もいらっしゃると思います。しかし心配ご無用です!テントをショップにて販売致しております!お値段ポッキリ3980Gの格安価格でご提供!校庭にテントを張って野外学習気分も味わえる優れもの!是非ご利用くださいませ』



 「ふざけるな!そんな金どこにあるってんだ!」


 「早くここから出して!お願い!」



 全校集会の只今で捕らわれた生徒達の中には貴重品すらロッカーに預けていて初期配分のゴールドしか持ち合わせていない者も多い。そこここで非難の声が上がった。



 『……たいそうにぎやかなご様子でいらっしゃいますところまことに恐縮でございますが、迷宮を攻略しない方々はご逝去あそばしていただければ幸甚に存じます』



 丁寧に“迷宮攻略しないやつは死ね”と言われて一瞬体育館が静まり返る。



 『装備もジョブもスキルも買えない不幸な攻略者様のために当方ではショップに0Gの“清掃用ホウキ”もご用意しております。第一層で御座いましたら、複数で挑めばこちらの装備だけでもある程度進むことは可能です』



 生徒達の中でどうせタダならばと、その0Gの装備を購入してみた者が数人いたが揃ってあまりの頼りなさに蒼白になった。



 「これ、ただの掃除用具入れに入ってるホウキじゃないッ!」


 「こんなのどうしろっていうんだ!?」



 そんな悲鳴を顧みず電子音声はこう締めくくる。



 『それでは皆様。楽しい迷宮ライフ二日目をお楽しみください』



 放送が途絶えた。“攻略しないやつは死ね”という方針から鑑みるに、生きるためには迷宮を探索するかその助けとなる何らかの生産スキルを取得しなくては早晩行き詰まるのを人々は理解することとなる。



 ゲームに詳しい者同士集まって攻略を決意する者、何とか生徒達をまとめようとする教師、ただ悲嘆に暮れる者……波乱の迷宮ライフ二日目が始まった。



大人の事情でタオル巻いたまま入浴。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ