ようこそ!学校迷宮へ!★
不定期更新。
とある学校の体育館には8クラス3学年、生徒と教師合わせ1000人弱が集まっていた。なんのことはない、全校集会の只中。無駄に長い校長の話しに辟易とした空気が流れている。
(早く終わらないかなぁ……)
大福幸恵はくせのある栗色の髪の毛を手慰みに弄りながら心中で溜め息を着いた。150cmしかない身長のため常に最前列に並ぶ羽目になる幸恵はあからさまにだらけるわけにもいかず、ただ全校集会が早く終わるのを祈るしかない。
もはや誰も聞いていない校長の演説がクライマックスを迎えようとしたその時、演壇の後ろに巨大な円形の魔方陣が浮かび上がった。
「なんだあれ?」
「誰かのイタズラか?」
「おい!映写機勝手に弄った奴は誰だ!」
突然の出来事に生徒達はざわめく。黙らせようと教師の一人が一歩前に進み出た瞬間、スピーカーから機械染みた声が響いた。
『ようこそ、学校迷宮へ!』
イタズラにしても度の過ぎた有り様に戸惑い、生徒達は辺りをキョロキョロと見渡したりと落ち着かない。
(やだ、イタズラ?なんなのよ一体……)
幸恵もまた、混乱の最中にあった。そう校則の厳しくない学校とはいえこんなイタズラをしてタダですむほど緩くもない。学校祭などのサプライズならまだ納得できるが、今日はただの全校集会である。
『貴方達は迷宮の攻略者に選ばれました。ここはすでに迷宮と化しています。体育館を一歩出ればモンスターの闊歩するエリアをなっておりますので準備のないままセーフティーエリアの体育館からお出になりませんようお願い致します』
「……は?迷宮?モンスター?」
まるでゲームのような単語に幸恵を含む生徒達は困惑して互いを見やる。
イタズラだと判断した教師陣が体育館の放送室に駆け込むもそこはガラリとして人の気配は無かった。ならば校内の放送室に犯人が居るに違いないと渡り廊下に一人の体育教師が踏み出す。……そこで事態は一変した。
「うわぁぁぁぁぁッ!」
渡り廊下に出たはずの体育教師の姿は忽然と消え、悲鳴だけが体育館に響く。ずるり……と引きずるような音と共に再び体育教師が姿を見せた時にはすでにその姿は変わり果てていた。
「……だ、だすげで……」
硫酸でも被ったように全身が溶け崩れて這うのがやっとの姿。ズルズルと体液をひきずって這う教師に体育館は悲鳴と嘔吐をこえらる呻き声に支配される。
(何あれ何あれ何あれ何あれ何あれ)
あまりにグロテスクな光景に幸恵は悲鳴すら上げられずに呆然と立ち尽くしていた。そんな彼女を余所に放送は続く。
『……と、いうように何の準備もせずに外に出ますとあのような最期を迎える可能性が高くなります。尚、渡り廊下以外へのドアは開きませんのでご注意ください。
貴方達は迷宮に閉じ込められました。元の世界に帰るにはこの迷宮を踏破する必要があります。迷宮攻略の準備につきましてはメニュー画面をご覧ください。以上を持ちまして案内を終了させて頂きます。
それでは皆様、良い迷宮ライフをお楽しみくださいますよう』
それきりブツリと放送は途絶えた。その直後に事切れた体育教師の死体が蒸発するように消えるに至って、体育館内は混乱の極致に達する。
「いやぁぁぁ、なによこれ!」
「開かない!ドアが開かないぞ!?」
「警察だ!警察を……圏外!?嘘だろ!」
逃げ惑う生徒を落ち着かせようと声を張り上げる教師も居たが効果は薄いようだ。幸恵は震える手を握りしめて呟く。
「まるで……まるで……」
「まるでゲーム……ですわね?」
被せるように聞こえた声にはっと幸恵が振り返るとそこには見知った少女の姿があった。
「……ユミちゃん」
そこに居たのは矢田ユミ。黒髪を肩口で切り揃え、おっとりした清楚な佇まいは現代の大和撫子といった風情だ。
「ゲームか小説みたいね……それもとびきり悪趣味な」
ユミはそう言いつつ幸恵の震える手を握る。
「ねえ、幸恵ちゃん。もし、これがゲームならいつもみたいに私とパーティーを組んでくれるかしら?」
そう、幸恵とユミは日頃からオンラインゲームでパーティーを組むゲーム仲間であった。
「ゲームって……ユミちゃん……」
「デスゲームってやつよね?……だってさっき体育の戸田先生が死んだもの……」
幸恵は俯いて泣きそうな声で呟く。
「どうしよう、どうしたらいいんだろ……」
ユミはそれには答えずブツブツと単語を並べ始める。
「ス?ステータスオープン?メニュー?……コンフィング?……開けゴマ?……メニュー画面?……開いた!開いたわ、幸恵ちゃん、見てください!」
「うそ……ホントにホントのゲーム?」
肩を揺すぶられて顔を上げた幸恵の目には青い半透明の板が浮かんでいた。
「でも何も読めないよ……」
「他者からの閲覧防止機能でもついてるのかしら?ちょっと幸恵ちゃんも“メニュー画面”と言ってみてくれませんか?」
「メニュー画面……」
半信半疑のまま口にした瞬間に幸恵の前にはゲームでよく見るようなメニュー画面が浮かんでいる。
「わ、見えた!」
【ステータス】【パーティー】【トレード】【ショップ】など幾つもの項目が並んでいるがどれもゲームをよくやる幸恵とユミには目に馴染んだ光景だ。見慣れたものを発見したせいか少しだけ落ち着いた二人はメニューを確認していくことにする。
「これがゲームなら、私達生き残れるかもしてないッ!」