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自伝映画館

 初投稿です。登場人物が主人公だけの実験小説です。これについての意見がもらえばありがたいです。

 木田太郎は28歳であった。

 木田太郎は退屈だった。

 金がなかった。

 仕事もなかった。

 高校卒業してから履歴書に書ききれないくらい転職していた。

時間だけが余っていた。

 太郎が目をさめるのはいつも太陽が頂上に達し、台所にいき冷蔵庫にある食べ物をあさる。それが終わると自分の部屋でテレビとにらめっこするか、コントローラーをもって大声を張り裂けるぐらいである。それがプー太郎の日課であった。

 今日は3ヶ月間働いてたホームセンターの最後の給料を取りにいった。くそばばあが働けとうるさいので新聞の広告にある求人情報で探す重労働をして働き始めた。しかし店に来る客が品物はどこだと横柄など態度をとるばかりで我慢できずにやめた。

 ホームセンターで給料を受け取り、彼は行くあてもなく歩道を歩いた。しばらくして彼は張り紙を見て立ち止まった。そこは3階建ての白いビルで白いドアだけしか見えなかった。


『本日無料で限定映画が見られます。人生を左右するかもしれません』


 太郎は鼻で笑った。

「でも家に帰ってもくそばばあがうるさいだけやし、タダだからいいっか」

 彼は白いドアを開けて中に入った。



 まず太郎の目に入ったのは2人分の縦長廊下と左側にあるドアが1つ、ドアの前に台が1つであった。台の上にはA4用紙と鉛筆が1つ置かれていた。天井にはライトがなく、窓のない光をさえぎる建物なのに、白壁がはっきり見えていた。彼は周りを見渡した後、台の前に立った。彼はA4用紙に書かれている文字を目で追った。

「えーっと名前と年齢と。次に学歴に職業、映画と何か関係あるのか? 書かないとドアは開きませんだと? まあいいや」

 彼はA4用紙に文句を言いながら鉛筆を走らせていた。

「これを書いたら紙はそこに置いて次の部屋に入ってくださいだと。まあいいや、入るか」



 部屋の中は太郎の正面に鏡が一面に張り巡らされていた。天井と床と前方以外の壁は白く塗られているだけで、出入り口は彼が入ってきたドアのみであった。四足の椅子が床の真ん中を独り占めしていた。一番最初の部屋と同じように光を発するものがないのに、白壁がはっきり見えている。彼は部屋の隅々を目で追った。

「おかしい、どこにもスクリーンがないよなぁ。椅子しかないし・・・」

 太郎は一瞬体全体固まったが、四足の椅子に座った。すると急に部屋の中が真っ暗になった。彼は目に焦点が合わないまま周りを見渡したが、正面の鏡が光ると目線をまっすぐに向きなおした。どこからもなく時計の針が動く音が聞こえてきた。鏡は彼の肖像から白黒の砂嵐に切り替わったと思ったら、学校の教室に切り替わった。手前に机が縦横に整然と並び、人はいない。

「どっかで見たことあるような・・・」

 鏡は教室を時計回りに移動するように動き、教壇と黒板が見えたところで止まった。右から半袖短パンの体操服を着た子供が教壇の前に立った。体操服についてるマークと名札を見てプー太郎は体中の血がひいた。

「子供のときのおれだ・・・。しかもおれが卒業した小学校じゃないか・・・」

 子供は太郎に目を合わせた。太郎も子供に目をそらさずに見続けた。

「こんにちは。ぼくは木田太郎だよ。おじさんは?」

 子供が話しかけたのに驚いてプー太郎は四方八方に首を振った。鏡以外は真っ暗で見えない。

「みんなはじめはびっくりするけど、すぐなれるよ。おじさんはやく名前いってよ」

「き、きた・・・たろうだ」

「ぼくと同じ名前だね。ねえ、ぼくの作文発表したいからちゃんと聞いてね」

 太郎はぎこちなく首を縦に振った。

「きんちょうしなくてもいいよ。あのね、作文の題は『ぼくのゆめ』だよ」

 子供は目線を原稿用紙に向けて読み始めた。太郎はじっと小学生の太郎を見ていた。

「ぼくのゆめ。6年3組、木田太郎。ぼくのゆめはけいさつかんになりたいです。なぜならお父さんに人の役に立つ仕事をしなさいといわれたからです。ぼくもそう思いました」

 いつの間にか太郎の目頭には涙が浮かんでいた。心臓が押さえつけられるような痛さがはしり、胸を中心にじわじわと熱くなりだした。

(あのときのおれは純粋に希望があったんだ。でもいつのまにこうなっちゃたんだろう・・・)

 彼の頭の中に今までの出来事が走馬灯のように思い浮かんだ。年をとるにつれて後悔の念が強くなっていく。でもいつ希望を捨てたのかははっきり思い出す事ができなかった。一方子供は目線を下に作文を読み続けている。

「最後にゆめをかなえるにはたくさん勉強して努力しないとだめだとおとうさんにいわれました。ぼくもいっしょうけんめいがんばっていきたいです。おわり」

 子供は作文を読み終えると、腰までお辞儀をした。太郎が顔を抑えて嗚咽をあげているのに気づくと子供はこういった。

「ねえおじさん、もう作文おわったよ。ちゃんと聞いてたの?」

 子供の声が耳に届くと太郎は目線を正面に向きなおした。

「もちろん聞いてたよ。ぼうず、夢をあきらめるなよ」

「お父さんと同じこといってるね。もちろんだよ。あのね、ぼくはこれで帰るから、部屋が明るくなったら2かいにいってね」

 子供が言葉を発し終えると、鏡は急に白黒の砂嵐になり、すぐ今の太郎を映し出した。同時に四方から白壁が復活した。太郎はしばらく四足椅子に座っていたが、ゆっくりと立ち上がった。

「あれ?」

 外に出ようとしたが、後ろの出入り口がなくなっていた。四方八方首を動かすと、鏡の右側にドアが現れた。



 2階の部屋は1階と同じ構造である。太郎はドアを開けるとそのまま四足椅子に座った。鏡は砂嵐を映したかと思ったら、すぐに学校の教室を映していた。1階の教室と違い、机と椅子が1つ置いているだけである。窓の向こうはオレンジ色の夕焼けと雲が溶け込んでいた。1分後、右側から黒色のつめえり学生服を着た男性が現れた。椅子の右横に気をつけの姿勢をしたまま動かない。プー太郎は襟の右側についている校章を見て自分の卒業した高校だと気づいた。しかし1階の時のような驚きはない。

「すいません、先生から学校のOBが面接見てくれるからってきましたけど」

 彼は10秒間硬直した。その後、首をゆっくり縦に振った。

「あのぅ、座っていいですか?」

「へっ? なぜ座らんの?」

「だって面接官が座ってくださいっていうまで座るなって昨日注意されました」

「じゃあ座ってください」

 太郎は自分が会社の面接で受けた内容を思い出して質問した。

「まず自己紹介を教えてください」

「名前は木田太郎です」

 高校生の太郎は棒読みで答えた。それにつられて面接官の太郎も棒読みで質問した。音階も強弱もない言葉の羅列がしばらく続いた。

「以上で面接の練習は終了です」

 面接官のプー太郎は淡々と言った。

「もう面接の練習はないですよね。もう帰っていいですか?」

 高校生の太郎は四足椅子を勢いよくひいて立ち上がった。面接官の太郎は首を縦に振ろうとしたが、無意識に高校生の太郎を呼び止めた。

「まてよ」

 彼の言葉に高校生の太郎は顔をしかめた。

「なんだよ、指導なら早くいってくださいよ」

 彼は頭の中が熱くなりだした。

「座れ、それが指導される側の態度か」

「・・・わかりました」

 高校生のプー太郎はしぶしぶ座った。

「君は何のために働くんだ?」

 彼の言葉で2人の時間が5秒硬直した。

「お金を得るために決まってるでしょ? それ以外に何かあるんですか?」

 彼は15秒間何も言わなかった。

「将来は何をしたいんだ?」

「楽に働きたいです。それ以外にありません」

「おまえは昔のおれとまったく同じだな。高校卒業してからしばらくは転職しても楽に働いてたが、今はニートだ」

「ニート、新しい職業ですか?」

 彼は思わずはっとした。

「プー太郎だ。実家に住んでるから食べるのには困らんけど、両親は年とっていつまで働いてられるのかわからん。おれは高校でて10年になるけど、雇ってくれるとこは限定される。いまからでも遅くはない、目標をもて」

 彼の頭の中は沸騰していた。その熱さを高校生の太郎にぶつけようとした。

 高校生のプー太郎は10秒間彼の瞳を見つめていたが、急に笑い出した。

「それはあなたが悪いじゃないですか。どうせしょうもないことでわがままばっかり言ってクビになったんでしょ。おれはそんなドジはしないよ。テキトーに仕事して我慢すりゃどうにでもなるぜ。だって今の日本は世界一景気いいんだぜ」

 その後、スクリーンは白黒の砂嵐に変わり、元の鏡に戻った。彼はしばらく四足椅子から立ち上がらなかった。

「そうか、おれが高校のときはバブルの絶頂だったもんな・・・」


 白壁に囲まれた階段に昇る途中、太郎は胸がつっかえそうな気になった。

「1階と2階は過去のおれを映し出されていた。次はもしかして俺の未来か?」

 彼は足の動く速さがだんだんおそくなった。やがて足が動かなくなり、体中の血液が蒸発していく気がした。

「みたくないけど、ドアは一箇所しかないし、見るしかないのか・・・」

 未知への恐怖を抱きつつ、彼は足を動かした。


 ドアを開けると、鏡と四足椅子があった。すでに鏡のスクリーンには自分以外のものが映っていた。床の下にゲーム機が置かれていた。そこから手前には数本の太いコード、反対側にはコントローラが1つ転がっていた。

「どこかでみたような・・・」

 プー太郎は部屋の中央に座った。1分後、顔中無精ひげをはやした男性が太郎と向かい合うように座った。Tシャツの丸首はのびきっており、ジャージ下の白い部分が真っ黒に染まっている。スクリーンから臭いが漂いそうだ。彼は画面の右下に人差し指で何かをおし、ゲーム機のボタンを押した。床に転がったコントローラを取り出すと、規則正しい動きで手を動かし始めた。

「おれだ・・・、われながら汚い顔・・・」

 太郎は呆然とした。

 画面上の太郎は静かに規則正しく手を動かしていたが、悪霊に取り付かれたかのようにわめきだした。太郎に向かって何を言っているのかわからない。ただ部屋の四方八方に向かって声を反射させているだけである。コントローラーを右に左に投げては拾い、その繰り返し行為をしていた。

「いつものおれじゃないか・・・」

 彼は自分の姿を見て胸が痛くなった。

「こうしてみると毎日こんなくだらんことをしてたわけか。情けない・・・。こんな人生なんて」

 2・3秒すると、急に画面が白黒の砂嵐に変わった。わめき声は聞こえいている。太郎は椅子を立ち上がった。

「なんだ!」

 わめき声と同時に画面上からドアの開く音が聞こえ、複数の人が不規則に速く動いているのが音で確認できた。すぐ肉体を叩く鈍い音が2回聞こえた。

「親父! おかん! どういうつもりだ」

 その後砂嵐の音声が流れたが、5秒後、次の画面が映りだした。


 ゲーム機は形もなく、右にストロークしていくと床に血のしずくが流れ出していた。部屋の右端には目を開いた人間が床であおむけ状態になっていた。額から血が流れ出し、それが顔全体を覆っていた。

「おれは殺されたのか・・・?」

 彼は床に力なく座り込んだ。

 5秒してしたから文字が下から上にロールででてきた。

「両親、30歳無職男性を撲殺。動機はろくに働こうとしない息子に絶望したという。両親はすぐに出頭し、まもなく逮捕された。」

 このロールを見て太郎はこう言葉を発した。

「これがおれの最期なのか・・・」

 しばらくして次のロールが下からでてきた。

「これがあなたの一生です。運命に逆らいたいですか? それはあなたの自由です」

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― 新着の感想 ―
[一言] ドキッとするリアリティにあふれた作品だと思いました。
[一言] 文章自体はお世辞にも上手いとは言えないのですが、妙なリアリティとストレートな感情がそれを補っています。
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