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十津川圭二の場合 その1

ゾクゾクする様な話が書きたくて、思わず書いてしまいましたw

ジャンルはホラーですが、血とかはなるべく出さない様にしていきます。

「怪談」とか「怖い話」みたいな感じで書いていこうと思います。

真綿で首を絞めるような感じで行きたいと思いますので宜しくお願いします。




 昭和58年夏、僕、十津川圭二とつかわけいじは一人暮らしを始めた。兄がこの春に結婚して、実家に住むようになったので、いい機会だから実家を出た。兄夫婦は、遠慮しなくていいぞ、と言ってくれたが新婚夫婦の家庭を邪魔するほど野暮じゃない。

それに、1人の方がじっくり漫画を描ける。一応漫画家志望なのだが、応募しても佳作どまり。デビューの話はまだまだ先の話だ。

「えっと・・・たしかこの辺なんだけどな・・・」

不動産屋から貰った地図を片手に、アパートを探している。しかし見難い地図だなと、ぶつぶついいながら歩いていると目的の場所に着いた。

「あった、あった。鈴河荘すずかわそう、間違いない。」

鈴河荘、築20年の年季の入ったアパートだ。6畳1間、台所とトイレは付いているがお風呂が無い。歩いて10分の所に銭湯があるっていうけど・・・まぁ僕の収入では、ここが精一杯だったわけだが。

すると、アパートのから女の子が飛び出してきた。ここの住人の子かな、とりあえず声をかけてみるか。

「あのーちょっといいかな?」

女の子は立ち止まって、僕の方に近づいてくる。小学生くらいかな、目が大きくて結構可愛い。

「ん、なんですか?」

「今日からここに引っ越してきた、十津川って言うんだけど・・・お譲ちゃんはここに住んでる子?」

すると女の子は、ニッコリと笑って話し始めた。

「あ、十津川さんですか。お祖父ちゃんから話は伺っています、遅いから迎えに行こうと思ってたんですよ。」

あどけない顔からは、想像できないほどしっかりした子だ。

「迎えにって・・・お譲ちゃん大家さんのお孫さん?」

「はい、吉野桜よしのさくらって言います。お祖父ちゃんと一緒に、ここの101号室に住んでいます。今日からよろしくお願いしますね、十津川さん。」

丁寧な挨拶をされて、あっけにとられた。本当にしっかりした子だな。

「こちらこそ、よろしくお願いします。改めて十津川圭二って言います今日からお世話になりますね、桜ちゃん。」

桜ちゃんは、にこにこしながらお辞儀をしてくれた。僕もそれにならってお辞儀をする。

「それじゃ、お部屋に案内しますね、こっちですよ。」

桜ちゃんに連れられて、自分の部屋に向かう。階段を上る途中に、1人の女性がこっちに来た。

有希ゆきおねーちゃん!こんにちは。」

有希おねーちゃんと呼ばれた女性は、立ち止まって桜ちゃんに挨拶をしている。

「あ・・・桜ちゃん・・・こんにちわ・・・」

すこしうつむき加減で、桜ちゃんに挨拶をしている。小柄で大きな眼鏡をかけている、地味な女性だが化粧をすれば美人になるだろう。

「有希おねーちゃん、今からおでかけ?」

「うん・・・これからアルバイトなんだ・・・」

アルバイトって事は学生か?有希と桜ちゃんは会話を続けている。

「本屋さんのアルバイトだね、また面白い本紹介してね。」

「うん・・・桜ちゃんが気に入る本、また、見つけておくね・・・」

「あ、いっけない忘れてた。こちら今日から204号室に引っ越してきた、十津川圭二さん。」

いきなり紹介をされて、泡を食ったが落ち着いて自己紹介をした。

「十津川圭二といいます、今日からよろしくお願いします。」

「さ、桜井さくらい・・・有希といいます・・・202号室に住んでいます・・・こちらこそよろしくお願いします・・・」

顔を真っ赤にしながら、挨拶をしてくれた。男が苦手なのかな・・・いきなり嫌われたって事は無いとおもうけど・・・

「じゃあ・・・桜ちゃん、十津川さん・・・わたし急ぐから・・・また・・・」

「うん、じゃあねーいってらっしゃい!」

有希さんは、ペコリと会釈をして階段を下りていった。

「桜ちゃん、僕嫌われたのかな・・・」

桜ちゃんは、きょとんとした顔をして不思議そうな顔をして話しかけてきた。

「なんで?そんなことないよ。有希ねーちゃんはいつもあんな感じだよ。」

なるほど、要するにおとなしい子なんだな。なんにせよ、若い女の子が居るって事は悪くない。

「はい、ここが十津川さんの部屋ですよ。」

階段のすぐ横が、僕の部屋だ。桜ちゃんから鍵を貰って、部屋に入る。荷物は事前に運んでいるから後は荷解にほどきだけだ、と言っても荷物なんてそんなに無いんだけど。

「じゃあ、桜はここで失礼しますね。お隣の203号の生駒いこまさんと、201号の高田たかださんは夜遅くに帰ってくるから挨拶は明日でいいんじゃないかな。」

「そうか、今日は色々ありがとうね桜ちゃん。大家さんには、後で挨拶しに行くよ。」

「お祖父ちゃんは、今日はいないんだ。また今度でいいよ。」

「そうなんだ・・・じゃあまた改めて。」

「じゃあ十津川さん、またね。」

桜ちゃんは、微笑んで部屋を出て行く。そしてドアを閉める瞬間、桜ちゃんが妖しく笑った気がした。背筋がゾクリとした、気のせいだろう。

疲れているんだな、荷解きは明日にして今日は銭湯に行って寝るとするか。



 銭湯から帰ってきて、部屋に戻った。帰る途中に酒屋があったので、缶ビールを2本買ってきた。風呂上りのビールは最高だ、立て続けに2本一気に飲んでしまいついついそのまま寝てしまった。

どれくらい時間がたったのだろう、寝ぼけまなこで時計を見ると夜中の2時だった。

「うーん・・・うっかり寝ちまったな・・・」

すると、部屋の外からなにやら話し声がする。誰だ、こんな時間に・・・すこし聞き耳をたてて、その会話を聞いてみた。

「今度は、どれくらいもつだろね。」

「そうね・・・結構もつような気がするけど・・・」

「まあ、余計な事さえしなければ大丈夫だと思うけどね。くくく・・・」

「余計な事さえしねけりゃね・・・大家さんの様に・・・」

話しているのは、桜ちゃんと有希さんだ。なんだ、もつって。余計な事ってなんだ・・・それに大家さんの様にって・・・

寝ぼけているんだな、たちの悪い夢だ。寝よう、僕は気味が悪くなって再び眠りについた。


 目が覚めた、時計を見るとお昼をまわっている。

「あちゃー寝すぎたな・・・昨日は変な夢をみちまったな。」

服を着替えて、買い物の準備をする。外食も良いが、自炊をしなければお金が掛かってしょうがない。昨日、銭湯の帰りにスーパーを見つけたのでそこに向かうとしよう。部屋に鍵をかけて階段を下りていくと、丁度学校帰りの桜ちゃんに出会った。

「桜ちゃん、いま学校からの帰りかい?」

「うん!ただいま。十津川さん、今起きたの?お寝坊さんだね。」

「ははは、まいったな。そうそう、大家さん今日は居るかい?」

桜ちゃんは急に表情が曇った、俯いて話し始める。

「ううん・・・まだ帰ってないんだ。」

「そ、そう。じゃあ、お父さんか、お母さんは居るかい?」

「いない・・・おとうちゃんも、おかあちゃんも居ないんだ・・・桜、お祖父ちゃんと2人暮らしだから。」

桜ちゃんは、ますます影を落としていく。しまった、余計な事を聞いちゃったかな。

「ご、ごめんよ・・・知らなかったから・・・じゃあ昨日から桜ちゃん1人なの?」

「ううん。有希おねーちゃんの所に、お世話になってるんだ。」

有希さん・・・その言葉を聞いて、昨日の夜中の事を思い出した。僕は、恐る恐る昨日の事を聞いてみることにした。

「あ、あのさ・・・桜ちゃん夜中の2時頃に、有希さんと僕の部屋の前で話ししていなかった?」

「え?夜中の2時頃に?してないよ。桜も有希おねーちゃんも、学校だから夜更かししないよ。寝ぼけてたんじゃないの?」

きょとんとした顔で、僕を見つめている。どう見ても嘘はついていない様だ。

「そ、そうだよね。ごめんね変なこと聞いて。桜ちゃん、困った事があったらいつでも言ってね。」

「そうだね、そのうちお邪魔するよ。」

その時、一瞬だが彼女が不敵な顔をして笑った気がした。一気に血の気が引いた感じがした、喉をゴクリと鳴らす言葉が出ない。

「じゃあ、桜。これから宿題しなくちゃいけないから、またね。」

「あ、ああ・・・またね・・・」

桜ちゃんが、ゆさゆさとランドセルを揺らしながら僕の横を駆け抜けていった。僕も気を取り直して、買い物に向かう。その時だった。

「十津川さん・・・」

急に、後ろから声を掛けられた。桜ちゃんだ、いや、彼女の声とは違う。この声は大人の女の声だ、僕は声の方に振向いた。

「世の中にはね、知らなくて良いことがあるんだよ・・・知ってしまったら不幸な事が起こるかもしれないよ。そうなったら桜、しらないからね・・・」

声の主は桜ちゃんだった、可愛らしい少女の雰囲気は無く冷血な眼で僕を見ている。なんなんだこの子は・・・

「知らなくて良いことって・・・」

僕の言葉を無視する様に、彼女は振り返ってそのまま部屋に入っていった。

「なんだってんだ・・・一体・・・」

その日は買い物をする気にはなれず、そのまま部屋に戻った。


 夜になった、昼間の桜ちゃんの言葉が耳について離れない。やっぱり、昨日の夜に桜ちゃんと有希さんは部屋の前で話をしていたんだ。

余計な事ってなんなんだ、知らなくて良い事ってなんなんだ。訳がわからない・・・

すると隣の部屋のドアが開く音がした、そういえばまだ隣に挨拶に行ってないな。帰ってきて行き成り行くのは失礼だから、すこし間を置いてから行くことにするか。

1時間経ってもうそろろ良いだろう、予め買って置いた手土産を持って隣に向かう。呼び鈴を押すと、若い女性の声がした。

「はーい、どなたですか?」

「あのう、昨日204号室に引っ越してきた十津川と言うものです。夜分遅くすいません、ちょっとご挨拶にきました。」

ドアがガチャリと開いた、出てきたのは派手な化粧をした人だった。彼女は、ふーんと言ってじろじろ僕を見ている。そして脇に抱えた手土産を見ると、ニコッと笑い出し愛想よく話し出した。

「わざわざありがとうね、私仕事が遅くってさー大体今頃の時間になるのよね。えっと・・・十津川さんだっけ?私、生駒純いこまじゅん。純って呼んでね。十津川さんっていくつ?」

「ぼ、僕は21です。」

「へー私、22なんだ。年が近いから仲良くなれそうね。よろしくね、十津川くん。」

人懐っこい人だな、でも明るい人が隣でよかった。

「こちらこそよろしくお願いします、純さん。」

2人で、はははと笑いあった。純さんの明るさで、昼間の事が忘れられそうだ。

「もう、他の人たちには挨拶したの?」

「いえ、まだ201号室の高田さんには行ってないんです。」

「高田さんも夜遅く帰ってくるからなー、じゃあ大家さんや、桜ちゃん、有希ちゃんには会った?」

「まだ、大家さんには挨拶出来てないんです。なんか出かけているらしくって、桜ちゃんと有希さんにはもう会いましたよ。」

すると、純さんの表情が曇った。そしてさっきまでの明るい雰囲気は無くなり、真剣な顔をして話し出した。

「大家さん・・・出かけているって?誰が言ったの。」

「誰って・・・桜ちゃんが言ってましたけど・・・」

純さんは考え込んでいる、すると意を決したように小声で話し出す。

「十津川くん、桜ちゃんと有希ちゃんには気を付けた方がいいよ。あの2人、かなりヤバイ気が・・・」

話の途中で、純さんの顔が青ざめた。どうしたんだろうと思い後ろを振る向くと、そこには桜ちゃんと有希さんが立っていた。

「こんばんわ、十津川さん、純さん。」

「こんばんわ・・・」

どうして、2人が近づいてきた気配なんか無かった。2人の姿を見た純さんは、小さく震えている。

「純さん、お仕事今終わったの?」

「う、うん・・・さ、さっき帰ったばっかりなんだ・・・」

「遅くまでごくろうさまです・・・」

純さんは、冷や汗をかいて青ざめている。必死に恐ろしさに耐えているようだ。

「お疲れの様ですね・・・顔色が悪いですよ・・・余計なお喋りは止めて、早くお休みになられた方がいいんじゃないですか・・・」

「そ、そうね。あ、ありがとう有希ちゃん・・・じゃ、じゃあまた今度ね十津川くん。お、おやすみなさい。」

勢いよくドアが、バタンと閉められガチャリと鍵が掛けられた。蒸し暑い夜だというのに、寒気がする。

「有希おねーちゃん、純さんどうしたんだろうね。」

「きっと、疲れているのよ・・・でも明日は土曜日だから、きっとお寝坊するかもね・・・ふふふふ・・・」

「そうだね、純さん明日はお寝坊だね。ふふふふふ」

2人の笑い声が、夜の闇に響き渡る。僕は、恐ろしくなって部屋に戻っていった。

部屋に戻っても、震えが止まらない。なにかある、このアパートにはなにかある。あの2人はなんなんだ・・・純さんが言っていた、あの2人はヤバイ気がするって。もしかして大家さんは・・・嫌だ、想像したくない。忘れよう、忘れたほうが良いんだ。

そう自分に言い聞かせて、家から持ってきたウイスキーを飲んだ。酔ってしまえばいい、酔ってしまえば悪い夢だと思える。

そしてウイスキーの小瓶を1本空けて、そのまま眠りについた。



 ドンドンと、激しくドアを叩く音がする。その音で眼が覚めた、頭がズキズキする・・・二日酔いだ。

「なんだよ・・・一体。」

玄関に向かって歩き出す、気分が悪い・・・

「はーい・・・どなたですか。」

ドアを開けると2人の男が立っていた、誰だ?見に覚えのない人たちだけど。

「すいません、突然おじゃましまして。私たち警察の者ですが、お隣の生駒純さんについてお聞きしたいことがありまして。」

「純さん・・・?純さんがどうかしたんですか?」

「はあ、実はですね。今朝お隣の生駒純さんが、自室で自殺をされててお亡くなりになりました。」



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