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佳奈の初恋

「お兄ちゃん、早く起きてよ。」

「う、う~ん、もうちっと…」

「もうちっとじゃない! 早く朝ご飯片付けないと、私も遅刻しちゃうんだから!!」

「…あと、五分…」

「馬鹿! もう知らない!!」


この家の朝は、いつものように騒々しかった。


この兄妹、妹の名は山口佳奈(やまぐちかな)

最近中学一年生になったばかりの12歳。

兄の名は広勝(ひろかつ)、今年受験生の14歳。

喧嘩はよくするが、仲は悪くない。


この家の朝は、佳奈が作った朝御飯を食べて始まる。

なぜ中学生になったばかりの佳奈がそんなことをしているのかと言うと、

母親の新美(にいみ)が病気で入院しているからだ。

父親の広明(ひろあき)は、単身赴任で家にいない。

そんな関係で、佳奈が山口家の家事を担っていた。


佳奈の朝は5時から始まる。

起きたら洗濯をしたりゴミ捨てをしたり、

朝飯を作ったりと、とにかく忙しかった。

そして合間に身支度を整えて、

朝ご飯を食べて、

それを片付けたら学校に行く。

だから、兄の朝ご飯が遅れれば、

佳奈も遅刻してしまうのである。


兄の広勝は、ぐうたらで、

それを手伝う事もないくせに朝が遅い。

佳奈は、基本的に、おとなしく優しい性格なのだが、

これではイライラしても仕方ない。

佳奈は、7時50分までには家を出なければならないが、

すでに7時半。

やっと広勝が起きてきた。


広勝「おはよ!」


KYな笑顔で、大きなアクビのおまけつきに、佳奈は怒る気力も失せた。


佳奈「早く朝ご飯食べてね。」


すると広勝は、さらにKYな話を続けた。


広勝「そうだ。今日、俺友達連れてくるけど、夕飯とか御馳走できる?」

佳奈「え? 今日? やだぁ、何もないよぉ。明日買い物行くつもりだったのに…」

広勝「マジに?」

佳奈「うん、だから帰る途中で何か買ってくれば?」

広勝「じゃあ、金くれよ。」

佳奈「何言ってるの? 自分のがあるでしょう。」

広勝「母さんからもらってるんだろ?」

佳奈「これは生活費。母さんの入院費だってあるんだから、無駄遣いなんて出来ない。」

広勝「なんだよケチ! じゃあ佳奈、金貸して。」

佳奈「やぁ~だ。」

広勝「お前、いい嫁さんになれねぇぞ。」

佳奈「いいもん!」

広勝「かわいくねぇなぁ…」


けれども、佳奈は、頼まれるとほっておけない、

お人好しな性格でもあった。

友達を呼ぶならば、それなりの用意をしてあげないと…

そうではない人には、よく解らないだろうが、

お人好しな人の思考と言うのは、

こんな感じなのだ。


佳奈「じゃあ、今日学校帰りに買い物して何か用意しておくよ。」

広勝「悪いな、佳奈。お前の作る夕飯、友達に結構評判いいんだぜ。」

佳奈「今更褒めたって知らない…」


広勝は10分位で朝飯を終えると、

朝御飯の片づけを手伝って、一緒に家を出た。


佳奈と広勝が通う中学校は、

佳奈の家から徒歩で10分くらいのところにある。

生徒総数は200名程度の田舎の学校。

登校途中には田園風景が広がり、

すぐ近くには小高い山々が青々と見え、

顔を見上げれば、

遠くに山脈の名に相応しい高い峰々が見える。

でも、何にもないど田舎というわけではなく、

24時間営業のコンビニが2件くらいあれば、

日用雑貨や食品ならば

たいていのものは揃うスーパーなどもあり、

普通に生活する分には不便な場所でもない。

そんなところに佳奈たちは住んでいる。

ちなみに家は一軒家。

佳奈が生まれると同時に建てられた庭付きの二階建て。


中学校は、各学年で2クラスずつしかない。佳奈は、1年2組だった。


「佳奈、おはよう。」


教室に入ると、真っ先に声をかけてきたのは久瑠実(くるみ)だった。

久瑠実は、幼馴染みであると同時に佳奈の従姉妹だった。

佳奈の父親の姉の娘である。

だから、従姉妹でも姓は古賀(こが)と言った。

ちなみに佳奈の親戚はやたら多い。

その理由と顔ぶれは追々紹介していこう。


久瑠実「今日の広君(広勝)はどうだった?」

佳奈「相変わらずだよ… ぐうたらで朝が遅くて…」

久瑠実「その割には一緒に登校するよね。仲良さそうだし。」

佳奈「仕方ないよ。お兄ちゃんが朝ご飯食べなかったら、片付けられないもん。」

久瑠実「佳奈も大変だね… でも、佳奈は家事とか好きだもんね。料理も得意だし。」

佳奈「う、うん… 料理が得意かは解らないけど…」


佳奈は、物心ついた時から、

母親と一緒に台所に立つのが遊びのようになっていたほど、

家事が大好きだった。

母親が大好きで、家事をしていれば、

ずっと母親といられるというのが、

最初のきっかけだったが、

それで佳奈は、小学校に上がる頃には、

食事や掃除、洗濯と、

一通りの母親の家事を手伝えるようになっていた。


小学校の6年間で、めきめきと実力をつけ、

母親が病気で倒れて入院すると、

佳奈は、進んで家事を担ったのだった。

母親が建てた家を守りたい。

そんな思いが強かった。


久瑠実「ところで、今日うちに泊まりに来ない?」

佳奈「今日? 今日は無理だよ。」

久瑠実「なんで?」

佳奈「お兄ちゃんが友達連れてくるから、夕飯作らなくちゃ…」

久瑠実「馬鹿じゃないの? そんなの勝手にさせとけばいいじゃん。」

佳奈「だって、何もしないわけにはいかないし…」

久瑠実「ホント、佳奈ってお人好しだよね。」

佳奈「…」


久瑠実は、そんな佳奈の性格をよく知っていた。

生まれた時から一緒だ。

解らない事なんてない。


久瑠実「今日は、うちのお兄ちゃんとゲームしようと思ってたのに。」

佳奈「なんで、そこで祐君が出てくるの?」

久瑠実「だって、佳奈は、うちのお兄ちゃんが大好きじゃん。」

佳奈「…」

久瑠実「もうすぐ佳奈の誕生日だけど、お兄ちゃんも呼ぶつもりだよ。今日は、その話し合いをするつもりだったし。」


佳奈は反論できなかった。

図星だからだ。

佳奈は、久瑠実の兄でひとつ年上の祐樹(ゆうき)が好きだった。

最初は、優しくて、面白くて、

頼りになる従兄として好きだったが、

思春期が近付くにつれて、

それは恋のようなものに変わっていた。

小学5年生くらいからだろうか。

異性として祐樹の事を気にし始めたのは…

佳奈は、そんな思いを隠していたが、

久瑠実には隠し切れなかった。

久瑠実も、いつしか佳奈のそんな思いに気づいていた。

でも、祐樹は従兄。

本当に、そんなことしていいのだろうか…

佳奈は今、そんな自分の思いに戸惑っていた。







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