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 手慰みに事を弾いていると、白い鳥が、山肌に打ち捨てられた、落ち武者姿のからからに乾いた木乃伊に舞い降りて、開き、ほどけ、灰となって崩れ落ちた。木乃伊の手には、、真っ赤に錆びついた小刀が握られていた。



 帰らず山の鬼女様へ

 わが夫を呪うため、字の書けぬ身の上なれば、代筆にて、あなた様へお手紙を差し上げます。

 ある人から、信濃にある『帰らず山』の話をお聞きしました。その山には棄てられたものが、幸福な幻の中で、この世ともあの世ともつかぬ異界をさまよう里が、いつわりの桃源郷ともいうような、ただただ幸福な世界があると。そこに文を書き、燃やした灰が、鳥となって貴女様に届き、呪いを聞き届けて下さるのだと。

 夫は結婚以来、地方に赴く貴族の警護をし、そのために留守がちでございました。夫が帰っても、夫を待つ心細さ、さみしさから、怒鳴りつけ、言い合うばかりの日々。体を重ねることがあっても、心が交わることはあまりませんでした。そうするなかで、夫以外の男ふたりと、関係を持ち、子をなしました。だというのに、無邪気に喜ぶ夫を見て、怒るというより、あきれてしまいました。

 この人が生きていれば、いずれわたしの罪に気づくでしょう。

 どうか、幻想のままに、夫を殺して下さいませ。

 真実を知るよりも、都に帰るよりも、夫にはそれが一番幸せです。

 このように夫を呪い、鬼女様に託すことが、わたしが夫にしてあげられる、愛でございます。


  完

 勉強不足もあると思いますが、信州戸隠の紅葉伝説を下敷きに、coccoさんの名曲「強く儚い者たち」に着想を得て、書かせていただきました。読んでいただいた方々、ありがとうございます。

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