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2.距離


 ざわざわしてる教室に戻ってきた。


「はーい。みんな席に着いて」


 担任の先生も入ってきた。

 廊下に保護者の姿もある。チラリと廊下を見たらパパとママの姿があった。


 (よかった。間に合ってる)


 小さく息を吐いた。



 担任の先生の自己紹介と、これから同級生になる人たちの自己紹介が始まった。


 同じクラスに中学生の同級生は1人だけ。


 (それに……りつをばかにした人はこの学校にはいない)



 手をぎゅっと握っり、心の中で大丈夫。大丈夫。と言い聞かせる。



 ぼくの順番がきた。

「雪咲凛月です。よろしくお願いします」


 それだけ言って席を座る。


 隣の子が立ち上がって同じように自己紹介をしてる。



 胸をゆっくりとなでる。


 (大丈夫。大丈夫。うまくやれる)


 目線をかばんに向ける。


 カバンの中にある、貝殻のキーホルダーを頭の中を思い描いて勇気をもらう。


「はい。では、今日はこれで終わります。明日クラス委員や各委員を決めるので各自配布したプリントを読んできてください」

 そう言って担任の先生は教室から出て行った。



 手にはさっき配られた紙がある。

 たくさんの委員の名前と仕事内容が書いてあった。



(あっ、これ)


 図書委員の項目に目が留まった。

 委員が当番で図書室のカウンターに入り、貸し出しや返却の仕事をするみたいだ。


 (これなら……)


「ねぇねぇ。さっきあゆ先輩と一緒にきたよね?知り合い?」


 後ろから声をかけられて振り返る。

 女の子2人がそこには立っていた。


「あゆ先輩?」

 首を傾げて聞き返す。


「ほら!副会長のあゆ先輩!さっき一緒にきてたよね?」

 弾んだ声を出してる女の子。


「あっ、いや。迷ってたら送ってくれたんだ」

 そう伝える。


「なあーんだ。そっか」

 落胆したような声。2人は一瞬にしてぼくに興味をなくして周りの女の子たちに「知り合いじゃなかった」そう報告をしてた。



 (そんなに有名な人なんだ……)


 胸の奥で少しだけ、ツキン。と痛みが走った。



「きみ大変だね。羽柴先輩と入学式から一緒にきて」

 そうやって隣の男の子に話しかけられた。


「そんなにすごい先輩なの?」

 隣を見るとは、一見話しにくそうなすこしだけ冷たい雰囲気を纏った男の子が座っていた。


「まぁ。サッカー部の次期キャプテンで来年の生徒会長。さらに学年一位とくればまぁねぇ」

 ちょっと肩をすくめて笑う彼。



 (なんだか……この子とは話せそう)


 なんでかそう思った。


「すごい人なんだね。ぼく全然知らなかったんだ」

 そう伝えてみる。


「みたいだね。なんかきみ朝からずっと緊張してるもんね。ぼくの名前は、速水翠(すい)。気楽に翠と呼んで。きみは?」


 テキパキと話をする彼。

 無駄がない人みたい。


「ぼくは、雪咲凛月です。すいくん。よろしく。ぼくのことも好きに呼んで」

「オッケ。じゃあ凛月で。これからよろしく」


 そう言ってすいくんは立ち上がりカバンを肩にかかげて帰って行った。


「凛月」


 教室の扉のところで小さくぼくを呼ぶ声が聞こえる。

 振り返ると、パパとママが手を振ってた。


 ぼくも手を振りかえし、手に持ってたプリントをカバンに入れて席を立つ。

 2人の元に走っていく。


「凛月今日はごめんね。間に合った?」

 ママが心配そうに聞いてくる。


「うん。大丈夫だったよ。パパとママも間に合った?」


 2人とも親指をグッと出して笑ってくれた。

 そのまま3人で階段を降りて校舎を出る。



 校舎を出たところにかたまりができてる。

 なにかな?と一瞬足を止める。


「先輩!サッカーの練習見にいきます」

「先輩俺もサッカー部希望します」

 女の子だけじゃなく、男の子もいる。



 その中心にいたのは……。


「あっ……」


 (羽柴先輩)


 中心だけ、光が輝いてる。


 みんなの話を頷きながら聞いてる先輩。

 あんなに人に囲まれてるのにちょっとも嫌そうな顔をしてない。


 不意に先輩が顔を横に向けた。


 先輩が少しだけ目を細めた……ような気がした。


 (目があった?……ううん。気のせい)


 パパとママが「凛月?行くよ?」そう声をかけてきた。


「あっ、ごめん」


 2人に声をかけて足を一歩踏み出した。



 そしたら……。


 輪の中心から、抜け出して走ってくる先輩。


「朝のきみ!入学式は無事に出席できた?」

 ぼくに話しかけてくれた。


「あっ、はい」

「そうよかった。これからは遅刻しないようにね」

 ぼくの頭をくしゃっとして笑いながらまた元の輪に戻って行った。


 触られた部分をそっと指で触る。


 なんだか、そこだけ少し熱くなってる気がした。


 (ぼくより背が低いのに……ぼくの頭を撫でた)


 また胸がとくっん。

 音がした。


「凛月?」

 パパとママが怪訝そうな顔をしてる。

 謝りながら2人の元に駆け寄った。

 


 夕飯が終わり部屋に戻って机に座る。

 カバンからプリントを取り出した。


 委員会の説明が載ってる。

 生徒会の中に先輩の名前がある。


 【羽柴歩実】


 そこを指でそっとなぞる。


 キラキラして、綺麗で光ってた。

 

 (ぼくとは違う世界の人)


 ちくん。


 胸の奥が刺されたみたいに少し痛い。


 クラス委員になれば……。


 そんな考えが一瞬だけ頭をよぎる。

 

 頭を振り今浮かんだ考えを振り切る。


 (生徒会はぼくには関係ない)


 そこから下の委員会の説明に目を通し始めた。


 次の日のHRで委員会を決めることになった。


「凛月はなににする?」

 すいくんが話しかけてくれる。


「ぼくは、図書委員にしようかなと思ってる。すいくんは?」

「どれもやりたくないかな」


 そんな風に言いながら笑うすいくん。


 (話せる友達が1人できてよかった)


 その事実に胸を撫で下ろす。

 カバンの中の貝殻のキーホルダーを思い浮かべる。


 (今日から頑張る)


 そう思いながら手を小さく握る。


「では、委員会を決めます。その前にクラス委員を決めてクラス委員に司会をしてもらいます」

 先生が話し始める。


「クラス委員の立候補者は?」

 先生が聞いた。クラスは一瞬空気が重くなり沈黙が流れた。


「じゃあ先生が指名します。速水」

 すいくんの名前が呼ばれた。


「やっぱり」

 すいくんが小さく呟いた。


「わかりました。もう1人は?」

「じゃあ私が」

「あっ、私が」


 すいくんがクラス委員に決まったら、次々に女の子が手を上げ始める。


「先生指名してください。ぼくと同じにして」


 すいくんがテキパキと先生に伝えてる。


 先生が女子生徒も指名して2人で壇上に上がり司会を始める。


 (すいくんって……モテるんだ)


 仲良くなれるかと思ったすいくんも少し遠く感じた。


「では、次に図書委員会を決めます」


 すいくんはテキパキ司会をして次々に委員会を決めていく。


 ぼくの隣はすごい人だったらしい。


 図書委員会だ。

 手をあげなきゃ。


 そう思うのに、空気を押されて手が上がらない。



 (りつ、手をあげなきゃ)


 

 (図書委員になって、メイクとかネイルとかの雑誌読むんでしょ)



 そう自分に話しかける。


 手を挙げよう。そう思うのに腕が動かない。


「誰もいないので、じゃあ指名で。雪咲くんお願いできる?」

 すいくんがぼくの名前を呼んだ。


 机を見つめてたぼくは顔をあげた。


 すいくんがぼくを見てる。


「お願いしていいかな?」

「はい」


 そう返事をするのが精一杯だった。


 (図書委員になれた。すいくんのおかげだ)


 全部の委員会が決まり、HRは終わった。

 すいくんがぼくの隣の席に戻ってきた。


「クラス委員なんて、めんどくさい」

 そう呟くすいくん。


「すいくん凄いね。先生から言われるなんて」

 ぼくがそう言ったらすいくんは笑った。


「まぁ。一位取ったから無駄に目をつけられてるんだよ」

 静かにそう言った。


 (凄い人だった)


 ぼくはびっくりして言葉が出ない。


「それより凛月図書委員になりたかったんじゃないの?手をあげないからぼくびっくりしたよ」

 そうぼくを見て聞いてくるすいくん。


「あっ……うん。なんか緊張しちゃって」

「そう。ぼくが指名してよかった?」


 イタズラっぽく笑ってくるすいくん。


「うん。ありがとう。よかったよ」


 そう言って笑った。


 (うん。一年間頑張れそう)


 

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