9-2
新学期が始まる頃にはすっかり体調は元通りだった。
予想通り、夕海は彩名を誘ったことをしばらく気にしていたが、これ以上その話をしたら絶交すると宣言して、ようやく普通に接するようになってくれた。
「そういえば、夢は思い出したんか?」
春の日差しがどこか懐かしさを感じさせる、四月のある昼休み、二人で弁当を広げていると彼女が尋ねてきた。
何か途方もなく長い夢を見ていた気がすると、夕海には伝えてあった。
「うちな、ずっと起きてたつもりやったけど。正直言うと、何度か寝落ちしてて」
「そんなの普通だよ。二日間、そばにいてくれただけですごいことだよ」
「ほんで、寝てる間に、実は彩名が一回死んでたらしいんや」
その話は医者からも聞かされていた。
夕海が眠り、医者も誰もいない間のことだったらしい。
記録を見ると、繋がれていた計器の値が全てなくなっていた時間があったということだ。
「でもそれって、機械の不具合だって、お医者さん、そう説明してくれたじゃない」
「そんなタイミングで再起動とか、すると思うか?」
「おもしろいっていう理由だけで、他人の人生を自分に都合良く書き換えないで」
「何で受け入れへんのや。そっちのほうが圧倒的に話題性が高いやんか。女子高生三段、昇段より先に昇天する、とかそんな感じで」
思わず食べていた物を吹き出しそうになった。
笑った彩名に、夕海も満足そうだ。
もちろん今のは彼女の冗談で、死んであの世に足を踏み入れただなんて信じていない。医者からは、意識はなくとも脳波の状態によって、夢を見ることはあるとも言われている。
ただ、そんな一般的な現象で説明できないような、何か不思議な感覚が頭の中に残っていたことは確かだった。




