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9-1

「彩名っ。うちがわかるかっ?」


 誰かに……話かけられている。


 答えを返さなくてはいけない。


 体が信じられないくらいにだるい。


 ここはどこ、と尋ねようとしたが、口を動かすのも面倒だ。


 どうにか目を開いた。


 意識が戻ると吐き気がした。


 やがて、しばらく前から視界にあったのが人の顔だということを認識する。


 首を傾げると、周囲が視認できた。


 ベッドに横たわっていることに気づくのに、さらに数分かかった。


「びょう……いん?」


 どうにかそれだけ口にしたとき、手を握られていたことを知った。


 それがぎゅっと強くなったからだ。


「うちのこと、わかる?」


 震える声には聞き覚えがある。


「夕海……でしょ?」


 そのうしろに見えるのは医者と看護師、か。


 それから彼女は彩名の布団に顔をつけ、号泣した。


 医者があれこれ検査をする間、夕海は誰かに電話をしていた。


 話し口調から、彩名の両親だろう。


 医者たちが病室を出ると、涙で顔をぐしゃぐしゃにした親友が再び隣に座った。


「もう安心やて」

「わたし……」

「覚えてる?」

「何……を?」

「何でここにいるのかや」


 ああ、そういえば。


 夕海と一緒だったのは……。スキー場、だ。


 あれ――。


 何か大切なことを忘れているような。


「わたし、どれくらい寝てたの?」

「丸二日や。でも、ホンマ良かった」


 そう言うと、彼女はまた涙を流した。


 レンタルウェアに着替える前と、同じ服に見える。あの日から、彼女は家に帰っていないのだろうか。


 ただの責任感じゃない。きっと彩名をスキー場に誘ったことを、この世の終わりかと思うくらいに後悔していたのだ。


「心配かけてごめんね……」


 そう口にして、何か不思議な感覚を覚えた。


 別の誰かにも、同じことを言おうとしていたような。


 近くのホテルで休んでいたという、彩名の両親がすぐにやってきた。


 さらに二時間ほどして、平日の午後だというのに夕海の母が現れ、腰が折れるかと思うくらいに頭を下げた。


「おばさん、わたし、夕海のおかげで助かったんです。命の恩人です。謝るのは迷惑をかけたわたしのほうなんです」


 意識なく眠っていただけだったのに、二人の絆が深まっていた気がした。


 退院したのはそれから二日後だ。


 幸い、体のどこにも異常がなく、後遺症の心配もないということだ。


 雪崩の規模が小さく、捜索にさほど時間がかからなかったことは幸運だったと聞かされた。



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