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8-1

 すっかり通い慣れた通り。京極とは違う庶民的な家並みにどこか安心する。彼女もきっと歓迎してくれるだろう。


 相国寺周辺の次に、勝手を知った場所で、もちろんまるで警戒なんかしていなかった。


 だから、突然誰かに腕を掴まれ、家と家の間の細い路地に引きずり込まれたときも、それが身に振りかかった災難だとすぐに判断できなかったのは、仕方のないことだと思う。


 視界がなくなり、息苦しくなって、頭から何かをかぶせられたことを理解した。


 声を出そうとして、布をうしろからぎゅっと絞られ、口を動かすこともできなくなる。


 かろうじて呼吸ができることを確認したとき、ふわりと体が浮き上がった。


 誰かに抱きかかえられている。


 体をひねって抵抗しようとしたが、相手は大人の男のようで、強い力にまったく歯が立たない。


 それから体全体が何かの袋に入れられた。


 誘拐されたことを認識するのに、しばらくの時間を要した。


 相手はおそらく僧侶だろう。負けた金を払いたくなかったのか、勝負に敗れた腹いせか。


 調べれば綾が水無瀬にいることくらい、すぐにわかる。


 それにしても、何かするつもりならどうして寺にいる間にしなかったのか、そんなことが思い浮かんだ。


 助けを求めようと、必死に声を出そうとしたが、喉の奥で呻き声が漏れるだけだ。


 それから、何かに乗せられた気配がした。


 もし、殺されたら――。


 綾に何と言って謝ればいいのか。


 ダメだ。絶対に。


 確かに、彼女はこの世界に絶望していたのかもしれない。


 それでもこの数カ月、彩名を通して、わずかずつではあるが光を感じてくれている気がする。


 そして何より。


 伏見が、後悔で狂い死にしてしまうに違いない。


 どうして外に連れ出してしまったのか。どうして綾を一人にしてしまったのか。


 二人を同時に不幸にするようなことは、絶対に阻止しなくてはならない。


 ああ。


 どうしておとなしく歌の勉強をしておかなかったんだ。


 科学的捜査も防犯カメラもない。


 涙が顔を覆っていた布を濡らした。


 恐怖と悔悟で体が震え、頭が空白になる。


 ただ伏見の名前を頭の中で連呼した。



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