7-6
次の日、目を覚ますと、珍しく伏見がすでに起きていた。
「どういうこと?雪でも降るのかな」
「お戯れを。せめてもの償いです」
早起きが償いとは、これいかに。
「そういえば、お金、取り損ねてしまったね」
「構いません。あの寺にある金など、まともな出どころなわけもございませんから」
朝の仕度を終えると、彼女は硯の準備を始めた。
「今日って……歌の日だっけ?」
彼女は無言で首を振ったあと、唐突に説教を始めた。
いわく、女子にとって必要なのは、将棋ではなく和歌の知識だと。
良縁を見つけるために、一刻も早く身に付けてほしいと、これまでにない真剣な眼差しを向けられた。
結婚――。まだ恋愛の経験もないのに。
これまで出会った中であれば、正親町の中将くらいしか候補がいない。
「あちらの方は家柄だけでなく、容姿も端麗で、多くの女が目を付けております」
今の綾の立場では、側室であったとしても可能性は低いというのが、女房たちの分析らしい。
伏見は一枚の紙を懐から取り出し、すっと綾の前に差し出した。
先日小春にもらった和紙だ。
あの日、一首だけひねり出した句がつたない文字で書かれていた。
歌の内容より、隠蔽がばれたことに赤面する。無言の、哀れむような視線に耐えられない。
「わかったから。その前に、えーと、買い物に行こう。ほら、小春さんがその後どうなったのか知りたいでしょう?そろそろ宿紙もなくなってきたし」
彼女はしばらく疑いの目を向けていたが、ため息をついた。
「承知いたしました。では午後は必ず歌の時間にしていただきます」
町娘として、外界を出歩くことが許されているうちはまだいいが、あと数年もすれば、それも難しくなる。
遠からず、身の振り方を決めなくてはならないのか。
紙屋が近づき、夕食の材料を買うと言った伏見と、二条の角で別れた。
「ではのちほど小春殿のお店で」
「うん、あとでね」
それは、何一つ特別ではない、彼女とのありふれた日常の一場面のはずだった。




