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翌朝、学校に行く足が重い。
結果はクラスメートたちに知られているだろう。
女子高生の三段ということで、ある程度注目されるのは諦めていた。ただ、対局のほとんどがネット中継されるのには抵抗がある。
それでも、勝ったり負けたりしていたときはまだ良かった。最近はずっと連敗だ。
さらに今回のように、女流との対戦で敗北したときの周囲の落胆ぶりは、ただ負ける以上に彩名に苦悩を強いることになった。
両親や友達は、いつも励ましてくれる。
「また勝てるよ」「次は大丈夫」「先は長いからゆっくり行けばいい」
本当にそうだろうか。
ライバルたちは、程度の差こそあれ、誰もが日々研鑽を積んでいる。それを上回って上達しなければ、相対的に棋力は下がっていくわけで、たとえ五十年あったとしても、目標には到達できない。一局という単位で番狂わせはあっても、半年それが続くほど甘い世界ではなかった。
教室に入ると、予想通りと言うべきか、自他ともに認める親友が、正視するのがためらわれるほどの笑顔で彩名に向かってきた。
「そんな落ち込まんと。惜しかったんやろ?」
夕海は嫌みを言って楽しめる人間ではない。
負けたとき、将棋の話題をしないという選択もあるはずだ。それでも、あえてそのことに触れるのは、自分が彩名の一番の親友であるという彼女の自負と、互いの信頼関係を確認するためなのだと思う。
そのことを理解してはいた。
それなのに、ここ一ヶ月は苛立ちを抑えることができなくなっている。
惜しかっただって?素人のくせに、どうしてそんなことがわかるんだ。棋譜の見方だって知らないくせに。
どうにか作り笑顔を返したが、長く続けられそうにない。カバンを置いてすぐ、お手洗いだと逃げ出してしまった。
個室に入ると、気遣ってくれた友達に対してわき起こった醜い心にまた落ち込む。
「もうイヤだ……」
負けることより、周囲からの期待や配慮という名のプレッシャーのほうがはるかにつらい。
いつからそんな風に考えるようになったのだろう。
祖父に教わり始めた頃、建前なく集めた大人たちからの称賛を、二度と受けることはないのだろうか。




