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翌日の夕方、綾宛に文が届いた。
伏見は中を開き、声を落とした。
「大納言殿にございます」
「あー……。やっぱり覚えてたんだ。将棋の誘いってことだよね?」
「ええ。ただこれは――」
彼女は先を読み進めているうちに、頬を紅潮させ、最後に口元に手をやった。
「何?何て書いてあるの?」
「いえ。手合わせの場所が、大納言殿の屋敷なのはともかく――」
「ともかく、何?」
「帝にもお声をかけられているようです」
「それってつまり、わたしの父君だよね?」
彼女は綾を見て、黙って頷いた。
「どうやら先方は本気ですね。綾様との勝負を宴会の目玉として、主だった公卿の方々にも列席を呼びかけられているとのことです」
いくら遊びに長けた貴族でも、将棋で三段の実力に敵うはずがない。寺での勝負を前に、手頃な調整になるのだと、その程度に考えていたが、伏見の表情に、言葉にできない不安が体を覆い始めた。
それは続く言葉で具現化される。
「厄介でございますね。このような公の場となりますと、負けた場合はもちろんですが――」
勝つことが簡単ではないという。
相手に恥をかかせることになるからだ。
大納言は全てを見越して、場を設定してきたのだろうと彼女は声を低くした。




