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4-3

 その日、夢を見た。


 夢そのものは、この体で何度も体験している。その多くは、きっと綾の記憶だ。


 そして今日。


 綾本人がいた。


 姿はぼんやりとしていたが、彼女であることは確信できた。


 最初に謝罪が口をついた。あなたの体を借りてごめんなさい、と。


 彼女は首を振り、「もう、戻りたくない」と言った。人と接するのが怖いのだと。


 ずっと屋敷に閉じ込められ、伏見と母親以外の人間からはうとまれ続けていたらしい。


 それだけではない。驚いたことに、以前にも、別の誰かに代わってもらったことがあるという。


「あなたが戻れば、わたしも、元いた時代に帰れるかもしれないの。それに、あなたには素敵なお友達がいるじゃない」

「あれも、いつかきっと私の元を離れて行く。そうなれば、今度こそ、一人になってしまうから」


 伏見が、綾に対して持つ感情は、単なる忠義だけではないはずだ。


「きっと、そんなことにはならないから」


 そう励まそうとした瞬間、目が覚めてしまった。


 寝不足ではっきりしない頭の中、綾の言葉が思い返された。


 どうやら、彩名がここに呼び出されたのは、広橋の家を追い出されることに彼女が絶望したから、なのかもしれない。


 そうであれば、まだ希望はある気がする。


 方法はよくわからないが。


 縁側に立つと、太陽はとうに真上を過ぎていた。


 伏見と声をかけたが、姿を見せない。


 仕方なく女童を呼ぶと、頼んでもいないのに、食事を運んできた。


 この時代、本来なら、食事は朝夕だけだ。その二食分を無理やり三回に分けてもらっていて、彼女は昼ご飯を要求されたのだと勘違いしたらしい。


 食欲はほとんどなかったが、文句を言うわけにもいかない。


 箸を持ち、漬け物をつついていると、少女の視線に気づいた。いつもなら、用事が済めばすぐにいなくなるはずが、今はもじもじしながら廊下に控えている。


「どうかした?」

「あ、その。申し訳ありません」

「いいのよ。何かあるの?」

「こ、小春殿のことはお伝えしたほうがよろしいですか?」


 そうだった。そちらも気がかりだったんだ。


「ええ、お願い」


 綾が身を乗り出すと、女童はうれしそうに話し始めた。


 どうやら恋人の大橋が、金貸しに借金の棒引きを願い出たらしい。


「そんなの無理でしょう?」

「許嫁の方がご実家の身代を賭けて、勝負を挑まれたようです」

「もしかして……また将棋っ?!」

「はい、そのようで」

「結果はっ?どうなった?」

「それが、十日後に改めて行うとのことです」



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