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その日、夢を見た。
夢そのものは、この体で何度も体験している。その多くは、きっと綾の記憶だ。
そして今日。
綾本人がいた。
姿はぼんやりとしていたが、彼女であることは確信できた。
最初に謝罪が口をついた。あなたの体を借りてごめんなさい、と。
彼女は首を振り、「もう、戻りたくない」と言った。人と接するのが怖いのだと。
ずっと屋敷に閉じ込められ、伏見と母親以外の人間からはうとまれ続けていたらしい。
それだけではない。驚いたことに、以前にも、別の誰かに代わってもらったことがあるという。
「あなたが戻れば、わたしも、元いた時代に帰れるかもしれないの。それに、あなたには素敵なお友達がいるじゃない」
「あれも、いつかきっと私の元を離れて行く。そうなれば、今度こそ、一人になってしまうから」
伏見が、綾に対して持つ感情は、単なる忠義だけではないはずだ。
「きっと、そんなことにはならないから」
そう励まそうとした瞬間、目が覚めてしまった。
寝不足ではっきりしない頭の中、綾の言葉が思い返された。
どうやら、彩名がここに呼び出されたのは、広橋の家を追い出されることに彼女が絶望したから、なのかもしれない。
そうであれば、まだ希望はある気がする。
方法はよくわからないが。
縁側に立つと、太陽はとうに真上を過ぎていた。
伏見と声をかけたが、姿を見せない。
仕方なく女童を呼ぶと、頼んでもいないのに、食事を運んできた。
この時代、本来なら、食事は朝夕だけだ。その二食分を無理やり三回に分けてもらっていて、彼女は昼ご飯を要求されたのだと勘違いしたらしい。
食欲はほとんどなかったが、文句を言うわけにもいかない。
箸を持ち、漬け物をつついていると、少女の視線に気づいた。いつもなら、用事が済めばすぐにいなくなるはずが、今はもじもじしながら廊下に控えている。
「どうかした?」
「あ、その。申し訳ありません」
「いいのよ。何かあるの?」
「こ、小春殿のことはお伝えしたほうがよろしいですか?」
そうだった。そちらも気がかりだったんだ。
「ええ、お願い」
綾が身を乗り出すと、女童はうれしそうに話し始めた。
どうやら恋人の大橋が、金貸しに借金の棒引きを願い出たらしい。
「そんなの無理でしょう?」
「許嫁の方がご実家の身代を賭けて、勝負を挑まれたようです」
「もしかして……また将棋っ?!」
「はい、そのようで」
「結果はっ?どうなった?」
「それが、十日後に改めて行うとのことです」




