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翌朝、目覚めると、これまで感じたことがないほどに体が疲労していた。
あと二日は余裕で眠れる自信があったが、伏見がほどなくして現れ、前の日に聞かされていた通り、すぐに外出の準備をさせられた。
異邦人でしかない彩名に、抵抗するすべや気力があるはずもない。
見送りに姿を見せたのは、とも子と呼ばれた女性だけだった。
本心を出さないことが美徳の時代なのか、前日の感傷的な言動は微塵も見せる気配がない。
伏見に手を引かれ、牛車に乗り込むと、簾が落ちた。
「これから……どこに連れて行かれるの?」
「母君のご実家にございます」
「さっきの家は?」
「あれは、母君の父君のお住まいにございます」
禅問答か。
「誰の家から誰の家に行くの?名前で……教えて」
「かしこまりました。先ほどの建物は広橋家当主、守光様のお屋敷になります。これから参りますのは母君のご実家、水無瀬季兼殿の居宅となります」
「つまり……こういうこと?母のとも子様は水無瀬の家に生まれ、広橋に養女に出され、そこから帝の……側室になって、わたしを産んだと?」
彼女は黙って頷いた。
「新しいお家で、わたしはどういう立場になるの?」
「母君の兄上、英兼公のご養女となります」
誰か家系図を作ってくれ。
いや、それよりも――。
「帝の子供ではなくなるの?」
その問いに、これまでずっと無表情だった伏見は、少しだけ鋭くなった目線を彩名に向けた。
「おそれながら。水無瀬は羽林の格にございます。確かに、姫宮というお立場ではなくなりますが、御身のご出自が消えるわけでも――」
彼女はそこで一度息を吸った。
「この伏見の忠誠が変わることもございません」
やはりそうなのか。天皇の血族であっても、養子は日常なのだろう。
「最後にもう一つだけいい?わたしのあやってどういう字を書くの?」
伏見は、寂しそうにため息をつき、それでも彩名の手を取ると、手のひらに、指で綾という文字を書いた。
公家には家格があて、いくつかの分類があります。
大きな区分としては、昇殿が許された堂上と、そうでない地下。
さらに堂上は、摂家、清華家、大臣家、羽林家、名家、半家の順に格付けされていました。




