第一話
私、瀬戸咲良が好きな、天才陰キャ男子、成瀬悠斗君はチャンネル登録者10万人超えのVtuber「蒼月悠斗」だった!?まだ彼が蒼月悠斗と確証を持てていないが学校でいろいろとハプニングが!咲良のハチャメチャ学園生活のはじまりはじまり~~
「…は?え…成瀬…君?」
ネットサーフィンで出会ったチャンネルの配信を見て、私、瀬戸咲良は驚く。PCの画面に映っているのは、半年前にデビューしたらしい登録者10万人超のVtuber「蒼月 悠斗」のゲーム配信。そこから聞こえる、どこか聞き覚えのある声に驚き、椅子から飛び跳ねてしまった。私自身確証は持てないものの、その声は私のクラスメイトで密かに心を寄せている成瀬悠斗君の声だ。
…いやそんなことありえる?自分が好きな、クラスじゃ目立たない陰キャが実はVtuberやってます?んな馬鹿なーーーーーーーー!
「咲良ー。早く寝なさいよー!」
お母さんがまたうるさいことを言ってくる。でも今日の私はそれに反応できるほどの冷静さと気力をとっくの昔に失っていた。
「はーい。」
「え?…なんかあった?」
「な、なにもないからっ!」
自分の部屋に戻って寝ようとしたものの、あの配信の声が耳に残って眠れない。
“蒼月 悠斗って人、ほんとに成瀬君なのかな…”
そんなことを考えながら眠れるはずもなく、次の日の朝は一時間寝坊してしまっていた…。
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「でさー、うちの親がベンキョーベンキョーってうるさいわけー、…」
「うちもやー。俺らやって好き好んで勉強してるわけじゃねぇんだよ!」
そんな言葉が朝から飛び交っている教室の中でただ一人姿勢正しく本を読んでいる成瀬君。
「やっぱりかっこいいな…」
などと物思いに耽っていると、幼馴染の陽菜が話しかけてくる。
「おっはよー!あれぇ~?咲良ちゃん、今いい顔してたよねぇ?恋する乙女の顔~!」
「べ、別にそんなんじゃないし!?」
「ほんと~?ニヤニヤしてたじゃんかー」
「だーーー!このーーー!」
彼女、夢野陽菜は私の隣に住んでいる幼馴染で、家族ぐるみで仲がいい。私とも長い付き合いなので、陽菜は「咲良は私に隠し事などできない!」とか言っています。成瀬君のこと好きなのがばれてる唯一の人です。
「そういや一時間目なんだっけ?」
「体育。プールだよ、陽菜今日も水着忘れたの?」
「がっはっは!今日は持ってきたのよ、偉いですのー」
「はいはい。早く着替えてプール行くよ!」
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つるっ、どーん!
「いたたたた…」
「大丈夫…ですか?」
「な、成瀬…君!?」
「はい、成瀬ですが…立てますか?」
プールサイドでこけてしまった私の近くに偶然いた成瀬君が話しかけてくれた。その筋肉質の体にドキッとする。
“ちょ…かっこよすぎない!?あんな筋肉持ってて性格も良いとか…反則でしょ…、っていうかなんで私にこんなに女の子としての魅力が無いのよ!?”
と、ぺったんこの胸を恨めしく思いながら起き上がった。
…気まずい。昨日あんなことがあった後にこの状況は気まずい。でも、やっぱかっこよかったなぁ…。
結局、見ちゃダメだと思うのに、気づけば彼のことを見てて…。
「おーい?咲良?さくらさーん?さーくーらー?」
「へっ?」
「『へっ?』じゃないわよ!あんた何考えてたのよ…、まああんたの顔からしたら成瀬君にときめいてたんでしょうけど?」
「そ、そんなんじゃないし!」
「じゃあなんなの?」
「え、えっと…あの、その…!」
口から出そうになる言葉を必死で止める。
心の中では、「給食のこと考えてたって言えば…いや、うちの学校給食ないし…」とかいろいろ考えてテンパってる。
「今日は平常心でいくんだから…!」
でも、瞳はつい成瀬君に向いてしまう。
陽菜の鼻で笑う声が背後から聞こえた気がして、さらに赤面してしまう。
「さくら、息してるー?溺れないでよねー?」
「だ、だから変なこと考えてないってば!」
思考が追いつかないまま、私はプールサイドで必死に立ち上がった…もののプールに落ちてしまった。
「まじで溺れないでよ!?咲良いなきゃ私まともに生きてけないんだから…」
「はいはい、気を付けますよ陽菜お嬢様。」
…ドタバタしたけど楽しかったな!と思いながらプールサイドを、足元に気を付けながら歩いた。
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その日の夜、前日から気になっていた気持ちを確かめるために蒼月悠斗の配信を見てみた。
“今日は…カーレースゲームの実況か”
「ここでインコースを取って…っしゃあ!1位ー!」
今日聞いた成瀬君の声にそっくりだ。
「そういやさー僕の学校今日プールがあって…」
え…?ほんと、本当に同じ学校…?いや、夏休み前にプールの授業があるなんて当たり前。うん、当たり前当たり前…
「ちょっとしたハプニングがあって…」
その声が聞こえた瞬間、私は画面の右上の×マークにマウスカーソルを秒速で持っていきブラウザを閉じてしまった。
なんで閉じちゃったの!?このままにしていれば成瀬君かも疑惑を確かめられたのに…
自分の手を動かそうとするが、動かない。こんな感覚は初めてだ。
“どうして…?”
「……やっぱり、もう一度見よう」
震える指でマウスに触れる。
でも、クリックの瞬間になって手が止まった。
“もし、蒼月悠斗が本当に成瀬君だったら。
もし、このまま配信を見て、決定的な証拠を掴んでしまったら。
私は、どうなっちゃうんだろう。
心臓の鼓動がうるさくて、耳まで熱い。
…怖い。知りたいのに、怖い。 ”
そのまま机に突っ伏すと、モニターの光が滲んでいった。
いつの間にか、意識はふっと闇に沈み込んで──。
翌朝。
「…あれ?」
目を開けると、PCはつけっぱなし。
頬にはキーボードの跡、目は重くて最悪の寝覚め。
はっと時計を見るともう家を出る時間だ。
「うわ、やっちゃったぁぁぁ!」
叫んだ声が、静かな朝の部屋に響いた。