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ハナミズキ  作者: 金平糖
3/3

昨日あの人と別れたところまで行ってみることにした。


話をすると詩織も付いてきた。

不安そうな顔を見ると、やっぱり昨日の出来事は幻だったのではないかと私も不安になる。


停車した所で降りてみて、足が竦んだ。

昨日は暗くて気が付かなかった。


「ねえ、本当にここで別れたの?」

「なんで、?どういうこと!?」


目の前に広がるのは誰が見たって墓地そのもので。

まばたきを何度しても一向に広がっている墓地に、私の叫びが響く。


「近くに、家があるって。新しい…」


見渡しても家なんてあるはずがない。


「真琴、あれ」


詩織が指を差す方には墓地の入口。

石柱に掛かって風に靡く、私が昨日着てたジャケット。


「ここ、私来たことある」

「…うん」

「まつりの、」

「真琴」

「なんで、なんでここなの」

「真琴…」


ジャケットを取ると足元に落ちた枝。


「まだ蕾だ、」


堅く閉じた蕾が枝にいくつか付いていた


「ハナミズキだよ、それ」


花に詳しい詩織が言うんだから、間違いない。

真っ白な蕾のハナミズキ。


「詩織、私確かめたいことがある。」

「…付き合うよ。」

「たしかg-126…」


あの日、確かにその場所にまつりは入ってしまった。

この目で見て、私も土をかけた。


もどかしさに耐えられず走っていくと、まつりの名前が掘られた石があった。


「まつり、なにしてんの…」


墓石に掛けられた、パールホワイトに紫の刺繍が入ったドレスには、はっきりと珈琲の染みが付いていた。


「うそ…」


詩織が息を呑む音が後ろから聞こえる。


「…詩織、このドレスって誰にでも手に入れられるもの?」

「無理。」

「商品化したとか」

「してないよ、これはふたりの為に作ったんだから。一つしか存在しない」

「…そっか」


染みのついたドレスを抱いて、墓石の前に膝を付いて座る。


「だってよ、まつり。これ、世界に一つしかないってさ。」

「真琴、昨日会ったのって…」

「、っ言って、くれればさあ」


零れた涙が石を色づかせた。


「話したいことたくさんあったんだよ。伝えたいことだって、数え切れないくらい。」


なんで言ってくれなかったの。

私だよって。


「私がまつりのこと忘れたって思っちゃったかなあ。」

「最後だって分かってたら、あの時まつりだって分かってたら全部伝えたのに」

「忘れるはずない、忘れられないのに」


私の腕の中で最期にまつりは“忘れていいよ、だから笑って”そう言った。


そんなこと、出来るはずがない。

だからもう一度会えたなら、せめてふたりで笑い合いたかったのに。


「最後に悲しませちゃってたらどうしよう、」

「…大丈夫だよ」


詩織は私がハナミズキを握る手を包みこんだ。


「大丈夫。」

「私、忘れなくてもいいのかな、」

「いいよ。」




墓石の後ろには、時期外れの勿忘草が咲いていた。


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