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短編2

魅了と言えばそうなんですけれども

作者: 猫宮蒼

 毎度のことながらハイパーゆるゆるな世界観だよ。



「アシュレッタ・ミヴォランテ! 貴様との婚約を破棄し私はこのミロワ・ブランシュを新たな婚約者とするっ!」


 大勢の前での宣言。

 普通の令嬢であるのなら、そのような事を言われてしまえば顔を青ざめるだろうはずなのに。


「あっ、はい。というか殿下、私と殿下の婚約は既に白紙となっておりますが……?

 何故白紙となって半年も経過してからそのような事を言い出したのですか……?」


 大勢の予想を裏切って、アシュレッタはなんで叱られているのかわからない犬みたいな表情をして言ったのである。


「は、なぁっ!? 白紙!? 半年前に!?

 知らん、私は知らんぞっ!?」


「えっ、ちゃんと国王陛下と王妃殿下から伝えられてるはずですけれど……

 ははぁ、さてはどうせまたいつものお説教だと思って聞き流してましたか?」


「そっ、それは……!」


 何かを言おうとしたものの、困った事に言葉が出てこなかった。

 何故って図星だったから。


「どうしましょう。まさかこんな茶番が繰り広げられるとは思っていなかったから、これって次どうすればいいのかしら?

 ねぇスカーレット、私これからどういう反応をすればいいの?」

「ちょっと巻き込まないでくださいまし。どうも何も、脚本もなし行き当たりばったりで劇に巻き込むような相手の事など放っておけばよろしいでしょう。

 根回し一つできない無能だから立太子できないんですよ。無能」


 困ったようにアシュレッタが助けを求めたのは、スカーレット王女である。

 婚約破棄を突き付けたケインの姉だ。


「あっ、姉上!? いくら姉上であっても言っていい事と悪い事が……え?」

「今更気づいたんですの? そう、お前はあまりの無能さに立太子できなかった。わかっていますよ、どうせ婚約破棄を突き付けた原因なんて、アシュレッタが持つ魅了の力で無理矢理自分を好きにしてどうのこうのとかいう、三文小説もかくやという言いがかりなのでしょう?」


「ぐっ……ぬぅ……!」


 言い返そうとしても図星すぎて反論できない。

 結果としてケインはぐぬぬと唇を噛みしめてスカーレットの言葉を耐えるしかなかったのである。


「大体最初に伝えられたはずだけど?

 アシュレッタの魅了の力は自分自身に使えないから、ハーレムみたいに自分の周囲に男侍らすような事はできないって」

「えっ?」


「あの、確かに私、魅了の魔法が使えますけれど、でもスカーレットが言ったように自分には使えないんですよ、魅了。自分以外に使う事はできます。

 でも、その、使い勝手が悪いというか、条件的に限られているので……大体魅了を自分に使ったりそうでなくとも好き勝手自由に使えていたら、今頃王家の皆さん我が家を寵愛しまくってますし、政敵だって魅了の力でぱぱっといなくなってみぃんな私の信者となってますよ。

 でも、なってないでしょう?

 つまりはそういう事なのです」


 アシュレッタの言葉は説得力がありすぎた。


 確かに自由自在に使えるのなら、気になる殿方みぃんな魅了。自分にとって利益がありそうな家の人たちもみぃんな魅了。ついでに邪魔になりそうな連中も魅了して自分の邪魔をしないように、なんて事ができてしまうわけで。


 けれどもそうではない。

 ケインの婚約者だったアシュレッタの事を好意的に見ている者も確かにいたけれど、しかしそう思う部分の説明は普通にできるし、理由もなく彼女の事が好き、というわけでもない。

 好きとは言えないけれどライバル的な立場で見ている令嬢だとか、お高くとまってんなぁと思う低位身分の令息だって普通に存在していた。


「殿下はもしかしなくても、私が殿下に魅了を使って殿下を思うがままに操った、とかそういう風にもっていきたかったのかもしれませんけれど」


「そ、そうだ……ッ!」


「ですが残念! 私が魅了を使ったのは殿下ではなくっ! ミロワ・ブランシュ男爵令嬢ですわっ!」


「えぇえーっ!?」


 ババーン! という効果音が聞こえてきそうな勢いで言えば、ミロワもまた驚きに声を上げた。


 えっ、わたしに魅了が……!?


「でっ、でも別にわたし、アシュレッタ様の事なんとも思ってないし」

「でしょうねぇ、私も別に貴方に私を好いてもらおうとか思いませんし、ましてや魅了をかけた上で私が貴方を好きになるとかもちょっと」

「どっ、どういう意味ですかぁ……!?」


「だって貴方初対面が失礼だったんですもの。それこそ、身分差の真実の愛、みたいな娯楽小説にありがちな天真爛漫系ヒロイン狙ってやってます、みたいな感じで」


「そっ……」


 そんな事はない、と言いたかったがミロワは言い返せなかった。

 だって、実際にそういう感じだなと思うような事があったから。


 貴族たちが通う王立学院で、ミロワはケインと出会った。

 本来なら出会う事も言葉を交わす事もないはずの二人。けれど、ふとした偶然で二人は出会い、そうして言葉を交わし知り合った。


 それはまるで、恋物語の冒頭のようで。


 なのでミロワはちょっと浮かれていたのだ。

 その後でアシュレッタと遭遇し、なんだか悪役令嬢みたいね、なんて。


 思うだけだったのが、ついぽろりと口からこぼれてしまったのである。


 アシュレッタも浮かれに浮かれきった新入生に、突然悪役令嬢みたい、なんて言われて思うところがないわけではなかったけれど。

 とりあえず初回は大目に見てあげたのである。


 だがしかし、その次に見かけた時もその次も。

 なんというか、鼻につく感じだったので。


 つい、うっかり。


 アシュレッタはミロワに魅了の力をかけてしまったのだ。


「貴方にかけた魅了の効果は、貴方と同レベルだと思われる存在とくっつきやすくなること、ですかね。

 地面にはちみつ一滴垂らしたらそこに虫が集まるがごとく。

 あ、同レベルって学力がとかではなく、人間性が、って意味ですのであしからず」


「つまりそれって、頭の中身がお花畑なのがより集まりやすくなるって事?」

「そういう事です」


 スカーレットの言葉にアシュレッタは即座に頷いた。


 突然の茶番。

 それを見守るしかなかった周囲は賢かったので察した。


 つまり……ミロワと真実の愛だののたまったケイン王子は、ミロワにかけられた魅了の力に引き寄せられてしまった、ミロワと同レベルの頭の中身がお花畑だという事を。


「なるほどね、じゃあ愚弟以外で彼女の周囲にいた令息たちもそうなのね」

「否定はしません」


 その一言で。


 実はミロワを守るような立ち位置を陣取っていた令息たちに周囲の視線が一斉に向けられた。


 ケインが声高に宣言していたとはいえ、実のところそのすぐ近くにはミロワを守る騎士みたいに数名の令息たちがいたのである。


「ねぇアシュレッタ」

「はい、なんですかスカーレット」


 今更ではあるけれど、二人は大親友なので当たり前のように名前で呼び合っている。

 こういう場でせめて敬称をつけろ……と忠告できそうな人物は残念ながらいなかった。

 国王はスカーレットに弱腰だし、王妃はもっとちゃんとした場であったなら苦言の一つも口にしたかもしれないが。


 スカーレットは許される範囲をわきまえているので、わかった上でやっているのである。

 アシュレッタも同様であった。


「その魅了を私に使った場合、どうなるのかしら?」

「同レベルというか、同類が集まりやすくなるので……そうですね。

 計算高くずる賢い腹黒とか集まって来るんじゃないでしょうか」


 アシュレッタは悪びれもせずしれっと言い放った。


「成程ね……わかったわ。

 じゃあ今度宰相のブラウンにその魅了使ってちょうだい」

「宰相閣下に、ですか」

「そうよ。もしかしたら埋没してるけど使える人材が発掘できるかもしれないから」

「はぁ、そういう事でしたら……」


「それはそうと魅了の力ってずっと続くの?」

「え? えぇまぁ。私が解除しようとしない限りは、そうですね」

「ふぅん?」


 意味深に頷いて、スカーレットはミロワを見た。

「ま、いいわ。

 茶番に付き合う気もないし、私ちょっと用事を思い出したから。

 一足先に下がらせてもらうわね。いきましょ、アシュレッタ」

「え? あ、はい」


 半ば強引にアシュレッタを伴って、スカーレットは去っていった。

 王家主催のパーティー。

 大勢の貴族たちの中に、ケインとミロワとその取り巻きを残して。


 国王や王妃が止める間もなかった。


 咄嗟に場の雰囲気を変えるべく王妃が楽団に曲を奏でさせて、周囲がその音にのって踊り始めた事で。


 どうにかその場はおさまった……と言えなくもなかったのである。


 ケインたちはその後別室へ連れていかれてお叱りを受けた。


 お叱りを受けたとはいえ、ほとんどはそこまで酷い罰を受けたとかでもなかった。

 何故ならミロワの取り巻き状態になっていた令息たちはとっくに婚約解消されていたし、ケインも別に立太子していたわけではないので今更廃太子となるわけでもない。

 アシュレッタとの婚約はケイン有責での破棄となってしまったけれど、処刑だのなんだのとされるほどの事ではなかった。


 彼らはとりあえず今後、本来あったであろう輝かしい未来の道筋をちょっとずれてしまう事になってしまったけれど。


 まぁ程々な暮らしはできた。


「あっ、魅了。消えてないって事よね!? えっ、それってつまりこれから先わたしの周りに現れる人って……えっ、ちょっ、アシュレッタ様ー!?」


 スカーレットの意味深な目に、あの時はなんだろうと思っていたミロワだけが。


 後になってから気づいたのである。


 今後、自分の周囲にやってくるのは自分と同レベル、同類と言うべき相手ばかりだという事に。


 すなわち、見た目がよくても中身が残念なタイプで玉の輿など夢のまた夢であるという事を。


 王都からブランシュ領へ戻されて、ミロワはそこでようやくその事実に気づいたのであったが。


 アシュレッタがいるのは王都で、ブランシュ領からはかなり離れている。

 麦畑を前に響いたミロワの叫びは言うまでもなく、王都のアシュレッタに届く事はなかったのであった。

 ミロワがこれから人間性を磨いてまともな人間になったら周囲にもうちょっとマシなのが集まってくるから救いはある。やり方次第では玉の輿も可能だけどそこに至るまでが相当長いかもしれない。


 次回短編予告

 彼の事を解放してあげて下さい!

 そういう風に言うけれど、でも、その愛を妨害しているのは私ではないのよ。決して。えぇ、本当ですとも。


 っていう感じの話。

 次回 真実の愛を引き裂く相手は私ではありません

 タイトルだけなら異世界恋愛確定してそうですが安定のその他ジャンルです。

 投稿は割と早めの予定。

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― 新着の感想 ―
魅了と言うか、縁結び?的な……
これってチャームなの? 頭の中、お花畑に集まるのは蜜蜂ではなく、アブかハエでしょうか? あまりにも残念過ぎww
なんというか……誘蛾灯を勝手に人間にくっつけるみたいな魅了魔法……?w (真っ先に浮かんだのがこれでした)
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