第二部 12 城
飛び交う言葉に呆れて、彼は頬杖をつきながら息を吐いた。脱力感と共に、疲労が体の外へと逃げていく気がした。
既に罵り合いと言っても過言ではないほど過熱した議場で、唯一、常温を保つ仮想発言台が発言者の顔を淡々と挙げて並べていく。
目で数えただけでも今、口々に話しているのは約二十人居る。よほど耳の良い人物か、肝の据わった人物でなければ全ての言葉を把握することはできないだろう。
仕方なく、録音部から放たれている無数の無秩序な音声データを全て端末に取り込み、整理して文字に変換していく。誰にでも分かる連邦語である。そして、強制転送を計る。
怒声がざわめきに変わった。今まで発言者の姿だけが映し出されていたフロアに、突如として理路整然と文字群が一斉に出現したのだ。それは、今まで彼等自身が発言していた一言一句を忠実に再現したものである。中には、セクハラや民族紛争にも繋がりかねない発言も含まれていたりする。
ざっと目を通しただけでも、今日にも議会を去らなければならない人物は十人にものぼった。たった五十人しかいない議会の中からこれだけの退席者を出すとなると、内外の基盤は瓦解してしまうだろう。
それだけ判断して、頬杖をついたまま、いつの間にか嵐を待つ海のように凪いでしまった議場に告げる。
「皆さんの意見は大旨分かりました」
避難訓練のサイレンによく似たベルを鳴らす。
「今日のところは閉会します」
案の定、暴風のように荒れ狂った叫喚が議場を襲ったが、それを尻目に彼はそそくさと席を抜け出した。