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和風ショートショート

宿無し狐と寂れた神社

何卒(なにとぞ)何卒(なにとぞ)私の願いを叶えてください」


 そんな男の声が聞こえてきて狐は目を覚ました。住処もなく、(つがい)も子もおらず、同じような境遇の狐たちとは喧嘩をして、ここまで追いやられてようやく休めると目を閉じてすぐの出来事だった。


「ああもう、うるさいな。なんなんだ、あの人間は」


 狐はそう呟くと、その人間がなにを願っているのか、耳を澄ませてみる。

 聞いてみるとどうやら告白したい女がいるらしいのだが、男として自信がないから、自信をつけてほしい、というようなことを長々と呟いていた。


 ああもう、くだらないなと思ったその時、狐の腹の虫が鳴いた。そういえば何日も飯を食っていないことを思い出した狐は、いまも賽銭箱の前で両手を合わせている男を利用することを思い付いた。

 そこで狐は一度咳払いをすると、出来るだけ厳かな声で男に話かけた。


「お前の願いを聞き届けよう」


 そして話しかけられて飛び上がる男に向かい、お供え物として飯を持ってくるようにと伝えた。

 飯を食うために、変身の術と幻惑の術を使うことにした。


 そうして狐は美女に変身すると、男に一夜の夢を見せた。男に自信をつけると言えばこれだろうと思ったのだ。

 夜が明けて自信に満ち溢れた表情になった男は、お供え物を置いていくと神社を出ていった。


「この方法ならしばらく飯を食えそうだな」


 お供え物のいなり寿司を頬張りながら、狐はのんびりとそう呟いた。寂れた神社に来る人などそう多くはないだろうから贅沢は出来なさそうだが、まあそれなりに食えればそれで満足だ。



 それからしばらくの時が経ち、狐はひどく立派になった神社の本殿で首を傾げていた。

 気が付けば同じように術を使える狐も一緒に暮らすようになり、連日のように人々が押しかけてきているのだ。


「なんでこんなに人が来るようになったんだろう」


 狐にはとても分からないことだったが、この神社は法の及ばない色街として一部の男たちの間では有名になっていたのであった。

お読みいただきありがとうございます

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― 新着の感想 ―
VRって、こんな昔からあったんですね。 (色街って単語から、まだ和服の時代と思いましたが、違っていたら申し訳ありません。) 極上の夢が、お供え物で見られるなら、と、こぞって押し寄せる人々。 多少治…
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