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5 辺境の町

 東の国境沿いにあるバロータという町は、先の戦において一度隣国に奪われた地だ。激戦の果てに取り戻した時には村も畑も焼け野原になっていたという。

 戦後も疫病がなかなか収束せず、更には復興の為に運び込まれる物資を狙って野盗が出没する危険地域だと聞いていた。

 幸い、馬車は一度も襲撃に遭うことなく町へ辿り着いた。見れば王都ほどではないにしても道は整備されているし、新しい家を建て畑を開墾する人々で賑わっている。


「軍の辺境守備隊が見回っているそうです。先の戦争を生き残った屈強揃いだとか」


 この地でエヴァンジェリーナと会って話したという従者はそう言った。彼女を連れ帰って来なかったのは、話していたら守備隊の兵士達に怪しまれて追い払われたせいらしい。


「守備隊には、あの『同胞殺し』もいるそうで」


 その名前に私は眉をひそめた。社交界でも一時話題になった元貴族の兵士だ。

 戦場において敵兵だけではなく味方まで殺して回り、遂には家族まで手にかけようとして勘当された狂人。その悪名が野盗を怯えさせているとすれば、ものは使いようといったところか。


 また追い払われてはかなわないので、私は逸る気持ちを抑えてバロータの領主へ挨拶に向かう。厳密には領主一家が戦で亡くなった為、今は王城から遣わされた役人が代官を務めていた。

 彼は私に、というよりヴァーロフ侯爵家の権威に対して好意的だったものの、妻に会いたいと話すと途端に歯切れが悪くなった。


 リーナは町にある孤児院で働きながら、調合師として病院や商店にも顔を出して忙しくしているらしい。今日は既に昼を過ぎているし、明日でなければ時間が取れないという。

 代官が大袈裟なほど平謝りするので、私は一晩だけならと待つことに決めた。


「辺境の地では医術の心得がある者も少ないでしょうから、仕方ありませんね。生きて無事だと分かっただけでも安心しました」

「おお、何とお優しい! お待ち頂く間に町を案内しますよ、新しい宿屋が先日出来たところです」


 代官の様子からして追い返される心配は無さそうだ。

 町を回る間、私は道行く人々にエヴァンジェリーナのことを尋ねてみた。出奔した侯爵家の妻と知られる訳にはいかないので、身分を伏せて従者を介した上でだが。


「エヴァンジェリーナ先生は息子の命の恩人なんです」

「エヴちゃんにお客さん? あの子ったら本当に忙しいねえ、少し休まないと」

「なあ王都から会いに来たらしいぜ! 調合師の姉ちゃん凄いな!」


 どうもバロータでリーナを知らない者はいないようだ。無事だったことは喜ばしいが、この地が捜索範囲から漏れていたことが悔やまれた。


 翌朝、妻が住み込みで働いているという孤児院を訪ねた。

 高位貴族など滅多に来ないのだろう。中庭で遊んでいた子ども達は物珍しそうにこちらを眺めていた。案内役の院長と職員は緊張した面持ちだ。妻を保護してくれた所なら手土産でも持って来るべきだったか。


 通された応接室は古い建物の割に小綺麗だった。別室と繋がっているのか、入り口と別に扉がある。

 職員の女性がリーナを呼びに行っている間、二人きりで話したい私は院長へ人払いを頼んだ。


 やがて扉が控えめに叩かれた後、質素だが清潔感のある身なりをした女性が入って来た


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