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《新田亜美視点》七話 わたしのきもち

お兄ちゃんが帰って行った。それを見届けたあと、私は私だけを呼び止めた佐野先輩に質問した。


「あの、何か私に言いたいことがあるんですか?」


「ええ、言いたいことは…わかってるんでしょう?新田くん…新田悠二くんのことよ」


やっぱり、そう思った。


「さっきも言いましたが私と兄さんの関係は兄妹です。それ以上でもそれ以下でもありません」


私はなんとなく、話を終わらせた方がいい、そう思って彼女たちが質問してくるだろう内容を先に答えた。


……しかし佐野先輩は聞いているのか、いないのか、変わらない様子で質問をしてくる。


「単刀直入に言うわ。新田くん……この際悠二くんにした方がいいわね。あなたは悠二くんに何か、特別な感情を持っているんじゃない?」


「……質問の意図が分かりませんね」


まずい、そう思った。

咄嗟にはぐらかそうとしてみたが、意味はないだろう。


「もう一度聞くわ。あなたは彼に対してどんな感情を持っているのかしら?」


「……ただの兄妹ですよ」


「嘘ね。少なくともただの兄妹以上の感情は持ち合わせているでしょう?それも【仲良し兄妹】には収まらないくらいの…ね」


佐野先輩……何だこの人は、ほとんど会ったこともないのに、この人と向かい合っているとまるで心の底まで見通されている、そんな感覚がある。


「はっきり言ってあげようか?あなたは彼のことが――」


「やめてください!」


私は声を荒げて先輩の声を遮った。


このまま、佐野先輩から私の気持ちについて言及されたら、蓋をしていた感情が溢れてしまうと思ったからだ。


「……」


「……」


そうして数秒間私と佐野先輩はお互いを見続けた。


「……そう。そこまでして言いたくないならいいわ」


ホッとした。

わたしにはこの人の口を止める術などないから…


佐野先輩は迷うかのように視線をどこかに彷徨わせ、そしてこちらに戻す。

視線を戻した時には決断したような、そんな真面目さがあった。


「亜美さん、あなたが悠二くんのことをどう思って、どう行動するのか、わたしには決める権利なんてないけどね……これだけは言っておくわ。後悔してからじゃ遅いのよ。それがどんな結果になるとしても、やっぱりやった方がいいのよ」


佐野先輩はどこか遠くを見つめる目をしていた。


「……何か、あったんですか?」


「……ふふ」


はぐらかされた。

ただ、その反応だけで、昔に何か後悔するような辛いことがあったのだろう。


「亜美さん、私はね、新田くんが好きよ」


「私も好き!大好き。……こんなの新田くんの前ではいえないけど……」


両人とも、顔が赤くなりながらもお兄ちゃんのことが好きだと言い切った。好きだと言うことは当人の前でなくとも勇気がいるものなのだろう。


それでも、私は彼女たちが羨ましい、そう思った。


「亜美さん、あなたはどうなの?このまま、勝負も何もせずに終わる気なの?」


「わた、し…は」


「決断はまだでもいいわよ。……それでも私たちは待たないけどね。彼女がいないのが分かったから、これからは遠慮なくアタックすることができるしね」


そして大村先輩と佐野先輩は席を立った。


「じゃあね、亜美さん。あなたがこれからどうするかは、あなたが決めることよ」


そして二人は帰っていった。


残された私は一人、背もたれに全体重を預けた。


「はぁ、後悔はしないように、か」


どうすれば良いのだろうか。


そう考えあぐねていると、千紗さんがやってきた。


「亜美、君が何で迷ってるのかは分かっているつもりだ、その上で、私が思ったことを言わせてもらう。今さら変化なんて恐れるな、ってな。それでも自分の気持ちに蓋をするなら、君は後悔するぞ。断言できる」


それに、と千紗さんは続ける。


「私は君がここに来た時に言ったはずだぞ。ここはもう、君の居場所だ。迷惑なんて恐れることはない。むしろドンドンかけていいってな」


「うん…」


やっぱりこの人たちは温かい。


「ゆっくり、ゆっくりでいい。数日後でも数週間後でもいい。数年後はゆっくりしすぎだがな」


私の心に何かが灯るのを感じた。


私は顔を上げて――

「ありがとうございました。また、今度!」


そう言って私は店を出て、お兄ちゃんが待っているであろう家に駆け出した。

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