四話 新田悠二、齢17にして死を悟る
朝になった。
清々しい朝だ。現実逃避には相応しい。
はははは……はぁ。
「なにやってんのお兄ちゃん。早くしないと学校に遅れるからね」
リビングで仰向けになっていると、亜美から呆れた目を向けられた。
学校に行きたくない、そう思ったのはいつ振りだろうか。
少なくとも最近ではない。小学生くらいの時だと思う。
つまり何が言いたいか……それほどまでに学校に行きたくないということだ!
「妹よ……俺を置いていけ。ここは俺が食い止める!」
「何を言ってるのかわからないけど、本当に遅刻するから早くいくよ」
ぁぁぁぁぁぁ、引きずられりゅぅぅぅ。
そろそろ亜美が本気で怒るので、俺はしぶしぶ靴を履いて学校への道を歩き出した。
「そういえば大村さん…と佐野さん?で合ってるよね。なんでその人たちと仲がいいの?」
「うーん…なんでだろうな。元々結構話したりする仲だったけど……それにしても話し始めた原因は心当たりがあんまりないなぁ」
気づいたら話をするような仲になってたんだよな。
委員会とか部活とかで同じになって話始めた…ってのもどっちとも違うしな。
「へー、一目惚れとか?」
「それこそないだろ。前まではずっと髪ボサボサだったんだぞ」
「たしかに……じゃあなんなんだろ」
「まぁ、考えても仕方ないしな…っと、学校に着いたぞ。じゃあまた、放課後こっちに来いよー」
「むぅ…分かったよ」
話しているうちに学校に到着したようだ。俺は未だに嫌がっている亜美に釘をさしてから、亜美と別れた。
自分の教室に入ると、俺の友人の海老名大地がこちらにやってきた。
「おう、おはようさん。いや〜昨日は本当におもし……んんっ、大変だったな」
「おはよう。面白かったって言おうとしたよね?てか君昨日自分だけ安全圏に避難したよね。殴らせろ!」
「やだね、あーそういえば昨日のこと真那に話したんだけどさ……」
勿体ぶるように言葉を溜める大地。
ちなみに真耶とは大地の彼女で、大地以上にタチが悪い。
苗字は三嶋だ。
大地のように修羅場とかを笑いながら見ているだけではなく、自分から乱入して場をかき乱していくヤバい奴だ。
……だからこの後、大地が言う言葉が手に取るようにわかる。
「笑い転げたせいで、階段から落ちて足首捻挫した」
分からなかった。
笑い転げる、までは分かったけどまさかそれが原因で怪我をするとは、誰も思い付かないだろう。
「……なんか負けた気がするわ」
若干項垂れた。
「それはそうと…大村さんと佐野さんにはなんて言ったんだ?」
「いや、まだ何も。放課後に弁明…というか説明しにいく」
嫌なことを思い出させやがって…放課後までは頭からシャットアウトしていたかったのに…
「ふーん、見に行ってもいいか?」
「駄目に決まってんだろ!」
そんなことを話していると、教室の扉が音を立てて開き、件の二人が教室に入ってきた。
「「おはよう、新田くん!それと海老名君も」」
「……おはよう、二人とも。二人とも元気だね」
何か言われるのではないかと少し警戒していたが、大丈夫そうだ。
「ちょっと待ってくれよ、俺はついでかよ!?」
大地が抗議している。確かについでのような言い方だったと思う。
だが、周りに気を向けられる程には警戒を解いた俺の両肩に、二人の手がのせられる――
「新田くん、今日は私たちが納得するまで帰さないからね」
「そうそう、あなたの義妹さんにもお話しを聞かせてもらおうかな?」
背筋が凍った、とはこのことだろう。怖すぎる。
二人はそれだけ言いたかったのか肩から手をはな――
「「あ」」
手を離す前に言い忘れたことがあったかのように顔を近づけて――
「「もし、嘘をついたら……どうなるか…ね?」」
背筋が凍えた、とはこのことだろう。生命の危機すら感じたかもしれない。
「は、はい!私、新田悠二、誓って一切嘘をつきません!」
「なら、いいのよ」
二人は自席に戻って行った。
どうやら嵐は去ったようだ。
「お、おい。大丈夫か?すごい顔をしてるぞ?」
持ち前の危機管理能力で安全圏に避難していた大地が、揶揄う前に言うほど、俺の顔は凄いことになっているようだ。
「俺、今日死ぬかもしれん」
冗談抜きに思った。
「安心しろ、もし死んだら俺が骨を拾って、その骨をベーリング海に撒いてやるよ」
俺は大地の冗談にも答えられないくらい、衰弱していた。
俺、放課後生きられるかな?
そう思っていると、授業がかなり早く感じるようになった。
誰か……助けて……!
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