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第1-3話 フルム・フォンテイン2

「あ、あの~女神さま? これは一体……?」


「私を女神と崇めるとは分かってるじゃない。女神の足裏を感じれるなんて、最高の褒美でしょう――って、はっ。しまった。つい、いつもの癖で……」


 頭の上に感じる重さから開放される。

 そっと頭を上げると、恥ずかしそうに顔を赤める少女がいた。


「いつもの……癖ですか?」


「ええ、そうよ。ごめんなさいね。私、頭を下げられると踏みたくなるのよ。そんな家で育ったのよ」


「家で育った……って、ことは、あなたはこの森に住む神様じゃないのですか?」


「ええ。確かに私は神のような存在ではあるけど、違うわね。私の名前はフルム・フォンテインよ」


「フォンテイン!?」


 僕はその名前に思わず大きく後ずさる。

 神様でなくても、その名前は知っている。


 フォンテイン家。


 それは、ブレイズ国の中でも上位に位置する貴族だ。僕が聞いた噂が確かであれば、ブレイズ家の長男であるフレアと婚約が決まっているはず。

 このフルムがその許嫁なのか――!?

 僕じゃとても手が届かない相手だ。


「そう言うあなたは一体、何者なのかしら? あまりにも汚れているから、一瞬、獣と間違えちゃったじゃない」


「……」


 冷たい視線と共に毒を持った言葉を吐くフルム。

 これも癖……なのだろうか?

 気になることが多いが、まずは僕も名乗るべきだ。


「僕はアウラ・リライズです」


 僕の名前を聞いたところで大した反応はなかった。


「あっそう。それで、あなたはなんでここに? なんて、まあ、願いを叶えるためなんでしょうけど」


「……じゃあ、フルムさんも願いを叶えるために?」


「そう! よく聞いてくれたわね!」


 僕の質問に食い入るようにして近づき、声を張り上げる。

 あまりに大きな声に驚いたのか、近くの木々に止まっていた鳥たちが一斉に羽ばたき逃げていく。


「私はね、過去に戻るためにやってきたのよ」


「か、過去に……」


 過去を変えるとは何か深い事情があるに違いない。

 これ以上は聞くのは野暮だと思ったのだけれど、話すフルムさんは止まらない。どんどんと自分の事情を捲し立てる。


「私は愛すべき妹のために【悪役令嬢】を完璧に演じなければならなかったんだけど、ある日、「もう、やめて」と妹に拒否されたわ。結果、妹は引き籠って私が婚約することも変わらず。私はそんな今をやり直すのよ!」


「えーと、それはつまり……」


 どういう状況なの混乱する。

 何度かフルムさんの話を聞いてようやく理解が出来た。

 どうやらフォンテイン家では複雑な恋愛事情があったらしい。


 本来、王であるブレイズ家の長男――フレアと結婚するのは、フォンテイン家の長女であるフルムさん。

 しかし、フルムさんはフレアの事は好きでない――が、妹さんがフレアのことが好きで一緒になりたいと思っているとのこと。


 ならば、2人が結婚をすれば丸く収まるのではと僕は思うけど、しきたりにうるさい互いの家系は、長男と長女が結婚すべきだと考え、妹とフレアの結婚を認めなかった。


 親の硬い頭を崩すために、フルムさん姉妹が決行したことが、姉の【悪役令嬢化】だった。

 性格の悪い姉とは結婚できないと思わせようとしたらしい。


 ……自分で整理出来たつもりだけど、それでも理解がしがたい状況だった。

 僕は、貴族も大変なんだなとしか思えなかった。


「そして、フルムさんが【悪役令嬢】を完璧にこなしてしまったがために、妹さんを傷つけてしまったと」


「ええ。全くそんなつもりはなかったのよ。私としては完璧に演じただけよ。ただ、それがよくなかったみたいね。妹と意識の違いが生じて……反省はしているわ」


 確かに初対面で頭を下げた僕を踏むメンタルの持ち主だ。

 もしかしたら、妹さんはもっと酷い目に遭っていたのかも知れない。


「にしても。私に何回も説明させるなんて――なんて無知な男なのかしら。やっぱり、頭をオオカミさんにでも食べて貰ったほうが良かったかも知れないわね」


 この人は本当に反省しているのだろうか?


「そしたら考える頭もなくなってますって……」


「確かにそうね! 無知なくせに冴えてるじゃない――じゃなかった。また、癖が……でてしまったわ」


「こうなってくると、完全に癖じゃないですよね?」


 もはや天から与えられた才能だ。

 フルムさんの性格に【悪役令嬢】が嵌ってしまったがゆえに、自分でもコントロールが難しかったのかも知れない。


「私のことはもういいでしょう?」


 自分の話したいことを話し満足したのだろう。

 話を急旋回で切り替える。


「あなたの願いは――【魔力】を増加させて欲しいってとこかしら?」


 腕を組み、僕を値踏みするように見たフルムさんは言った。


「なんで、そう思うんですか?」


「だって、獣に襲われそうになっているのに、【魔法】を使わなかったじゃない。そうなれば、獣を追い払うだけの【魔法】が使えない。つまり、【魔力】が足りないということでしょう?」


「……」


 そう、これが普通だ。【魔法】が使えないなど、誰も思い描かないのだ。

 当たり前にある器官がない。

 僕はそのことをフルムさんに話した。


「あら、そうだったの。申し訳ないわね。でも、まあ、無能ってことには変わらないから大丈夫よ」


【魔法】が使えないことと、【魔力】が弱いことはフルムさんにとって同じなのか。器が大きいのか、大雑把なのか。今のところ僕的には後者だと感じているけど。


「……それ励ましてます?」


「失敬。また、やっちゃったわ。注意しているんだけど」


 注意していても、それだけ自然に毒が出てくるのであれば、早く改善したほうがいいのでは?

 でも、それは【魔法】も使えない只の農家である僕が教えることではないだろう……。


「お詫びと言ってはなんだけど、折角だから、一緒に祠を探しましょう。私があなたを獣達から守ってあげるわ!!」


「それは……頼もしいですけど、いいんですか?」


 フルムさんの提案は、僕からすれば有難すぎる提案だった。


「あなた、やっぱり馬鹿なのね。私から提案してるんだから、いいに決まってるでしょう? なんで、同じことを聞くのよ」


 同じ日、同じ時間。

 偶然にも同じ場所を目指していた僕とフルムさんは共に【願いの祠】を目指すことにした。

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