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9

以下の物語と連動しております。


宿禰凛一編「only one」

http://ncode.syosetu.com/n8107h/


水川青弥編「愛しき者へ…」

http://ncode.syosetu.com/n0724i/


藤宮紫乃編「早春散歩」

http://ncode.syosetu.com/n2768i

挿絵(By みてみん)

9、

 ペンションで過ごすのは三日間の予定だったから、好奇心旺盛の凛一は初めての那須をあちこちと観光したがるかと思ったが、食事以外はコテージを出ようとしなかった。

 主な時間を二階のベッドの上で過ごしている。

 朝と晩は食事が付くからいいが、「昼飯はどうする?どこか景色のいいところにでも行こうか?」と、誘っても、「別に昼抜きでもいい。俺、慧とくっついていたいもん」と、腰を掴んで離さない。

 仕方がないから、始終ベッドでじゃれあっては相手をその気にさせ、エキスが空っぽになるまで貪り続ける。

 全く持って欲に忠実な獣そのもの。

 しかも、飽きるどころではない。

 凛の身体と繋がるたびに、自分が求めていた精神と身体のバランスの域に近づいていくような気がしてならない。

 凛は俺を楽園へ誘おうとしているのだろうか。


 そうかと思えば、気が付くと、ベッドの中で参考書と鉛筆を手にぶつぶつと唸っている。

 受験生なのだし、最もな姿だと褒めたいところだが、恰好は真裸のままだ。

 注意しても「またすぐ脱ぐんだからいい」と、バスローブを軽く羽織るだけ。

「まさか、ここにまで参考書を持ってくるとは思わなかったよ。一応受験生だってことは、裸になろうと理解しているらしいね」

「まあね、T大を狙っているわけだからな。これでも成績上がってるんだぜ?」

「ああ、紫乃からメールを貰った。今のままならT大合格も充分可能だって言われた。期末の模試はかなり良かったんだろ?」

「うん。学年トップのミナには到底及ばないけれどさ。俺が成績いいとミナが喜ぶんだよね~。あいつは本気で俺と一緒にT大に行こうと思っているらしくてさ…俺は行かないって決めてるけど」

「…」

「大学が違えば、ミナとは疎遠になる…留学となりゃもっとだろ?…少しずつ自然消滅すりゃ、ミナの傷も少なくて済むかも知れないし…」

「凛…行きたい大学を好きに選んでいいんだよ。おまえが水川くんと一緒にT大に行きたいのなら、俺は止めたりしない。俺が恐ろしいのはおまえの未来を狭めたり、歪めることなんだ。俺のことは考えずに、自分のやりたい道を進んで欲しい」

「慧を選んだのは俺の意思だよ。慧がミナに対して後ろめたい気持ちを持つのはわかるけど、俺が慧と一緒に生きるって決めたんだ。建築家になって慧と一緒に働いて、暮らしたい。その為の学部も選考したいし、アメリカの大学って言っても、慧の仕事の関係もあるだろうから、離れて過ごさなきゃならなくなるかもしれない。すべてが上手くいくかどうかわからない。でも、未来の目標はちゃんと見えてるよ。慧の為だけじゃないよ。俺自身がそう決めたんだから。だから慧も自分を責めたりしないでくれ。同情や気遣いは俺に対してもミナにも余計なおせっかいになる」

「…わかったよ。おまえの良き未来に俺が役に立つのなら、何でも言ってくれ。おまえは俺に最上の幸福をくれたのだから、俺はなんでも与えてあげたい」

「じゃあ、沢山抱いてくれる?明後日には慧はニューヨークに行っちゃうんだから、慧の温もりを少しでも長く感じてたいもん」

「それは与えたことにはならないよ、凛。俺の方がより欲しがっているんだから」

 参考書をサイドテーブルに投げ、俺に身を寄せた凛は、俺の胸に手を置き、祈るポーズを取った。

「…慧が他所の男へ目移りしませんように。俺に呆れ果てて逃げたりしませんように…」

 わざと聞こえるように呟く凛一の腰を引き寄せる。

 擦れた吐息に欲が狂い始める。

 何度だって飽きない。

 凛とのセックスに一回だって同じ快感なんてありえない。

 誰にもどこへも行かせたくないな。

 手足を絡めて一生解けなくしてしまいたい。

 結びついたまま枯れ木になって海に流されたら、彼の地に辿り着けるのかな…

 いや、彼岸に母と梓がいたら呆れ果てることは必定。

 まだ心中はできない。

「なにが可笑しいのさ、慧」

 腕を巻きつけたまま、背中を撫でる凛はきつい顔で睨む。

 そろそろ限界かもしれないと、腰を深く入れた。

 華が散るようにシーツに項垂れる凛の神々しさ。

 与えられた愛に酩酊する喜びの姿がある。



 終わった後は、すぐに寝付いてしまう凛一だったが、気が向くと肌をくっつけ合ったまま、喋り続ける。

「言葉は精神であり、セックスは身体の求める泉である」

 と、大仰に言う凛は、俺の胸に腕を組んで綺麗な顔を乗せた。

「法要の時、お坊さんが説法をしたじゃん」

「ああ、人が苦と感じるのは、欲がある為である。何かを欲したりすることが自己愛であり、迷いもまた苦の種でもある…って言ってたな」

「人と比べたり、何かに対して怒ったりする感情を抑えることが悟りの一歩でもあるって言うけどさ、そんな感情を切り捨てて、欲望や煩悩を感じないで、それが生きていると言えるだろうか。迷ったり怒ったりするのは愚かなことだろうかねえ…俺、天上の上からわかったふりで下界を見下ろすより、地上に足をつけて、なにか面白いもんないかな~って、探しながら生きる方が豊かだと思うけれど…」

「悟りは遠くなるかもな…でも、俺もそちらがいいな。凛の歩く背中を追っている方が苦があるとしても、同じほどの楽もある。何もないより、どれだけマシかわからないさ」

「俺の後を追うの?せめて横並びに歩こうよ」

「そうだな。その方が手を握れるしね」

 伸ばした凛の手を取って絡めた指先にキスを落す。それを見つめた凛は

「…もし俺が死んでしまったら、残された慧が可哀相すぎるな」と、呟く。

「…」

「それとも、俺に囚われないで生きられて、楽になるかもしれない」

「凛、やめてくれ。盂蘭盆(うらぼん)は終わったんだから、母さん達の魂に惹かれないでおくれよ」

「わかってるって。俺は母さんや梓の分まで幸せになるって約束したんだから大丈夫だよ」


 凛一…おまえが死んだら…多分、俺は生きてはいられないだろう…

 誰がなんと言って俺を慰めようと、それが罪だろうと、おまえの後を追うだろう…

 光を失っては影の存在など、ないのだから。


 

 楽園を後にする空しさといったら…言葉にもならない。

 空港で凛一と別れた後は、すべての景色がモノクロになった。

 だから何度も繰り返し思い出し、俺のすべてを凛一で一杯にした。 

 見事に美しい天然色のそれは、歩く道を願いの道として輝き、俺を導いて行く。





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