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以下の物語と連動しております。
宿禰凛一編「only one」
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水川青弥編「愛しき者へ…」
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藤宮紫乃編「早春散歩」
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凛一は見事に整った容貌だった。
孤高を彫像にした冷酷とも思える容貌が、口元に笑みを浮かべるだけで、光輝く明るさを纏った。
いつだって俺は凛に酩酊してしまう。
ただ見惚れるだけの愚昧な人間に成り下がる。
俺はこれを胸の中に抱き続けることができるのだろうか…
夜が来ると凛一は俺のベッドへ忍び込む。
たしなめると「だって慧一としたいんだもん」と、あっけらかんに欲深さを明かす。たじろがないまでも、少しは恥じらいを見せたらどうだと思うのだが、色情は俺の方が上だろう。
甘い声でせがむ凛がやがてふらふらになり、降参する。
それを楽しみ、意識を手放すまでいかしてやるのは俺の本性でしかない。
最もこれくらいで今まで積もり積もった愛欲が簡単に消化されるものではないが。
「凛、おまえが帰る前に3日ほど、車で旅行しないか?休暇も取ってあるんだ」
少し寝ぼけた凛一と一緒に朝食を取る。朝日が凛の顔を照らすから、眩し気にまばたきをする。
「ホント?行くよ。こちらに来ても観光はあんまりしてないからね。本音を言うともっと沢山色んなものを見たかったんだ」
「ほったらかしにしてたからな。罪滅ぼしじゃないが、色々回ろう。それに実はボストンに用もあるんだよ。明後日がジャンの結婚式なんだ。招待されていたんだが仕事の都合が合わなかったから、保留にしてたけど、折角だから一緒に行こうか」
「え?俺も行っていいの?」
「ジャンに連絡したら、是非凛一にも参列して欲しいって」
「ジャンに会うの一年ぶりかな~楽しみだ」
「ブライアン教授も来られるから、凛の志望を伝えておくといいよ。留学の時に伝があると選びやすいからね」
「ああ、あの紳士だね。俺、去年話したよ。慧の弟だって言ったら可愛がってくださった」
「…良かったな」
こいつは本当に誰とでもこうだ。この種の心配は一生付きまとうのだろう。
式はボストン郊外の古い教会で執り行われた。
まだ4月初めのボストンは日本とは比較にならないほど寒かったが、薔薇の花びらが舞い散る正午には春を思わせる暖かな日差しに恵まれた。
ジャンも新妻のシーラも幸せそうだった。
以前の俺ならそれを心から祝福する気にはならなかったかもしれない。 だが、今は違う。
Congratulations!と、俺の隣で叫んでいる凛一は俺の一生のパートナーだ。
神の祝福は受けられなくても、俺たちは全うな愛を誓い合っている。
人間ってのは利己主義の塊だと言うが、俺もそれには漏れず、自分が幸せに満ちたりているからこそ他人の幸福もやっと願ってやれる。
「おめでとう」と、心からの祝福を明るい友人に捧げた。
ジャンは俺をじっと見つめ、ニヤリと笑った。
「うん、今日のケイイチはこの真っ青な空みたいに澄み切っているね。…リンイチがいるからなのかい?」
「なんとでも言えよ。今日は反論はしない。君の幸せを心から祈りたい気分なんだ」
「サンクス。俺もケイイチがいつもハッピーでいられるように神に祈るよ。これからも良き友人として付き合えたら嬉しい」
「勿論さ。仕事の方も色々と世話になるよ。郷に入りては郷に従えってね」
「?」
「ジャンを頼りにしているっていう事だよ。ジャン、おめでと~かっこ良かったよ!」
喜び勇んだ凛一がジャンに飛びつく。驚いたジャンは凛一を抱いたまま腰を抜かした。シーラは驚きながら大笑いしている。
幸福のハトが大空に舞い上がった。
手の平で翳した太陽が眩しくて、暖かかった。
翌日にはカナダのケベックまで足を運び、途中気に入った景色や建物があれば足を止め、観光した。
どこに行っても凛一は喜び、感動しては感嘆の声をあげた。
暗くなったらモーテルへ泊まり、お互いが求めるままに散々やり、昼近くなるとまた車を走らせた。
「新婚旅行みたいだね」と、凛は屈託なく言う。
幸福と言う言葉の意味はこういうものだろうと感じていた。
だが、これからのことを思うと、喜んでばかりはいられない。
蜜月は長くは続かない。
そして時を告げる月は、待たずして絶えず形を変えるものだ。
凛一が帰国する日がとうとう来てしまった。
帰りの飛行機は嶌谷宗二朗と同乗すると言う。
丁度、彼も日本に帰る日が一緒だったというが、嘘か真か信用ならない。それなのに凛一は浮かれている。
「宗二朗さんが俺の分までファーストを取ってくれてさ。一応反省してるのかな?でもファースト初めてだから超楽しみ」と、ご機嫌だ。
俺との別れの名残は一体どうなっているのだか…と不満もあるが、言って聞かせても早々にこいつの性格が変わるわけではない。
「凛、あんまりあの男を信用し過ぎるなよ。嶌谷さんとは違うんだからな」
「わかってるよ。そうだ、嶌谷さんに俺たちのことを話してもいい?」
「そうだな…嶌谷さんだったら大丈夫だろう」
ひとりぐらい俺たちの味方が居なくては、凛一が可哀相だ。
「これからもお世話になるだろうし、俺からも伝えておくけれど…だけど凛、念を押すけれど、あの男には注意しろよ」
「はいはい、わかったよ。慧は相変わらず過保護」
「それから…」
「何?」
もうひとつ気になる事があった。
凛一の付き合っている恋人のことだ。凛はこれからその子との関係をどうするのだろう。
だが、それは俺が詮索することではない。すべて凛が決めることだ。
「いや…勉強しっかりやれよ。あまり帰ってこれそうもないから…傍にいてやれないけれど…」
「心配しないでよ。浮気はしないよ」
「凛のは充てにならないからな」
「そっちこそ、日照りになっても他の奴とやるなよ」
自分は棚にあげてか?と言いたかったが、ここまで悪びれないということは、凛の中では俺と水川と言う恋人は全く別次元なのだろう。
ケネディ空港まで送って、仕事があるからと別れた。
バックミラーに手を振る凛一の姿が映る。
すぐに目を逸らした。
これ以上見ていたら、前が曇って運転など出来そうもなかった。
「元気で。いつでもおまえを想っているよ。愛してる…」
きっと彼には届かない。
何故なら、彼は振り向いて生きる者ではないのだから。
それでも俺は凛一を守る為に生きる。
凛一を愛すること。
それだけが俺の生きる意味を持つからだ。




