2
以下の物語と連動しております。
宿禰凛一編「only one」
http://ncode.syosetu.com/n8107h/
水川青弥編「愛しき者へ…」
http://ncode.syosetu.com/n0724i/
藤宮紫乃編「早春散歩」
http://ncode.syosetu.com/n2768i/
2.
正月は父と新しい継母と4人で、温泉で過ごすことになった。
宿禰家で家族旅行なんて滅多にないことだ。
実を言うと、凛一が生まれる以前には毎年のように各地の避暑地へ遊びに出かけていたのだが、凛一が生まれると、元々身体の弱い母の容態は更に悪くなり、それっきり家族旅行はしなくなった。
凛一には家族水入らずでのバカンス経験はこれが初めてかもしれない。
俺は親父が再婚しようがするまいが、まるで他人事のように思っているが、果たして凛一はこの成り行きをどう感じているのだろうか。俺はそればかりが気になっていた。
だが、それは俺の杞憂だった。
凛一は新しい継母の「和佳子さん」を事の他気に入った様子で、始めは少し照れて遠巻きにしながらも、時間が経つに連れ親密になっていった。
実母が亡くなったのは俺が14の頃だ。
俺には母への慕情が多いに蓄積されている。だが凛一は母親を知らない。よく覚えていないと言う。
母が凛一に深い愛情を注いでいたのを知っている俺は、凛一の母親への薄情さには些か不満がある。
凛一が5歳になるまでは、母は凛一ひとりにかかりっきりになっていたといって良いくらいなのに。
母の愛情など何ひとつ知らぬままに、新しい継母に嬉しそうに接近する凛一に、俺は驚きを隠せずにいた。
古い格式あるホテルだった。
調度品も時代を感じさせるレトロな趣きのあるものばかりだ。
ベッドの横になった凛一は、高い天井の格子を珍しそうに数えていた。
夜、二人きりの部屋の中で、実母の事を聞くと、
「仕方ないよ、いくら死んだ母親が俺を可愛がってたって兄貴がゆってもさあ、俺、覚えていないし、…それに和佳子さんはいい人じゃないか。俺、好きだよ、新しいお母さん。慧は嫌いなの?」
「嫌いだとか…そういう感情は俺にはないよ。親父の奥さんとしか認識してない。母親に甘える歳でもないしね」
「そりゃそうだ」
「でも凛はまだお子様だから、母親のおっぱいが恋しいのかもな」
「そう、なのかなあ…和佳子さんが本当のおかあさんだったらいいなあとは思うけどさあ。実際は一緒に暮らすわけでもないから、あんまり関係ないのかも」
「…」
否定をしない凛一を見て、俺は少しショックだった。
凛一にはまだ母親のぬくもりが必要だということなのか。
別に俺が母親代わりになりたいとは思っていないが、なんだか継母に気を取られている凛一が気に入らない。
心が狭いのは十分承知しているが、なんとも言い難い心持ちで仕方がない。
「どっちみちすぐに大人になるんだし、本当のおかあさんなんて、俺も必要ないのかも」
暫くの沈黙の後の凛の言葉がまた胸を痛くした。
俺は心の奥底では、凛一に誰も近づくなと叫んでいる。
誰も凛一を見るなと…
そんなことが出来るはずも無い。
いくら凛一を隠そうとしても、凛の魂は暗闇に行くほどに輝きを増す。
その姿を他の奴らが見逃すわけがない。
凛は俺の手の届かないところに行ってしまうのだろうか。
俺はただその背中を追うだけしかできないのだろうか…
「ねえ、慧。そのうちさ、慧に会いに行ってもいい?」
ベッドに寝たままの凛は、クッションの深いソファに座った俺の方を向いて尋ねた。
「え?シカゴに?」
「俺、慧のくれた絵葉書の教会を直に見てみたいの」
「そんなに教会に興味があるのか?」
「うん、あのフォルムにね。どうやって構築されているのか、なんであの形が宗教的に象徴となりえるのか…とかさ、そういうのに興味がある。どちみち兄貴は梓の聖堂を作るつもりなんでしょ?一応俺もアドバイスなんかしたいじゃない。だから色々と見ておきたいんだ。いいかな?」
「ああ、勿論…そうだな。春休みになったらおいで。俺は院の研究室で仕事をしているから、ずっとついててやれないが、大人しくしていると約束するなら、色んなところに連れて行ってあげるよ」
「なんだよ、大人しくって…自分がちょっと大人だからってガキ扱いしやがってさあ」
「独り寝が寂しいって言う奴はガキだろ?」
「だって…人肌って気持ちいいじゃん。寒い時なんかなんでもいいからぬくぬくしたいって気持ちになるよ。マジでネコか犬でも飼おうかな~。抱いて寝るの」
「やめとけよ。抱き枕の代わりにさせられちゃ、ペットが可哀相だ」
「じゃあ、やっぱり慧が抱いてくれよ。一緒に居るときぐらいはさあ」
俺を向かいいれるように微笑んで手を広げて待つ凛一の誘いを、どうして断る事ができようか。
俺はソファから立ち上がり、凛一の眠るベッドに向かった。
半身を起こして腕を伸ばす凛を抱えるように、俺も抱きしめた。
凛のぬくもりが愛しい。俺は満ち足りた気分で一杯だ。
その上、凛はキスまで求めてくる。
俺はそれを返しながら、反応する身体を何とか持ちこたえさせようと必死になる。
精神愛と肉欲っていう同義的にも背反二律にもなりえる感情を巧く操縦する方法を、俺は昔から覚えてはいたが、近頃はそれも段々と覚束なくなっているようで怖い。
「…やっぱり、慧とするキスは他の奴とは違うなあ」
「比べるなよ。他人とするキスと同じに感じても困るだろう。それに…普通の兄弟はやらないもんだ」
「だって仕方がない。俺は寂しがりで、そして慧は俺にぞっこんだからな」
「…自分で言うな」
俺は最もだと苦笑した。
ぞっこんどころか…俺の魂はおまえと言う鎖で縛り付けられてるよ、凛。
旅行から帰ると俺はすぐにシカゴへ戻った。
帰る間際、残った継母としばらく過ごす事になった凛一はどこか浮かれている様子で、俺は嫉妬の矛先が「和佳子さん」に向かないように何度も視線を背けてしまった。
筆者のBLブログ「auqa green noon」はこちら。
http://arrowseternal.blog57.fc2.com/
イラストも多数ございます




