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自宅に帰っても、凛一の姿はなかった。
あの後すぐに紫乃と別れ、帰宅した。もう二度と凛一と仲たがいをするのは絶対に嫌だった。
凛一の部屋に行き、ベッドに腰掛けて弟を待つ。
どう説明すべきなのかはわかっているつもりだが、なんだかそれも億劫になってしまう。
本当のところはどうだっていいんだ。
凛が俺を見捨てなけりゃ、俺のものでいてくれりゃ…それだけで…
この独占的な支配欲は凛一にとって、不必要なのだとわかっている。
俺は凛一を失うのが怖いだけなんだ。
凛が他の奴に懸想をしていると思うと、兄としての部分は喜び、愛欲を持っている片方は嫉妬をしている。
そういうことだ。プラマイゼロになりゃいいんだが…上手くいかないのも現状で、この有様…
結局、俺という人間の性とはこういうものでしかないのか…
部屋の窓から西日が差し込んでくる。ああ、もう夕刻になったのか…そう思い始めた頃、部屋のドアが開き、凛一の姿がおぼろげに見えた。
「慧…」
凛は驚いた様子で俺に近づいてくる。
「…お帰り、凛」
「どうしたのさ。こんなところで、昼寝でもしてたのか?」
「寝れないよ。おまえをあんな気持ちにさせたままにして…すまなかったよ」
「もういいよ、気にしてないし…」
俺の隣に座り込み、肩に凭れる凛一が無性にいとおしくなり、その頭を引き寄せた。
愛している…愛している、凛一、おまえの存在だけが俺を生かしているんだ…
俺を許すと言う凛一の言葉を聞きながら、俺はまだ天秤が釣り合ったままでいられると感じていた。
キスが欲しいという凛一の誘惑にも、抑制が効く自分がいる。
大丈夫、まだ理性は保てるさ。
おまえを守るために、俺は存在するのだから。
俺の膝に乗り、幼い頃のままに俺を抱きしめるこの存在を、この距離を、俺は失いたくない。
凛、おまえは俺を守る城になると言ってくれたことがあるね。覚えているかい?
俺はね、おまえと言う城の中に身を潜めているだけの脆弱な生き物なんだよ。
おまえの城を出た時、俺は、きっと…
「暫く離れ離れになってしまうけど、いつもおまえのことを思っているからな。何かあったらすぐ連絡しろよ。一目散に凛の元に帰ってくるから」
「慧一こそ、他の男と遊び惚けて俺を忘れるなよ。俺を捨てたら承知しない」
おまえを忘れるなんてこと…一生できまいよ、凛…
なあ、凛…
俺のすべてはおまえの為にある。
遠くなく、おまえは大人になり、しっかりと自分の道を歩いていくのだろう。
そして、その傍らにいるのは俺じゃない誰かだ。
俺はひとり残される。
だから、その前に、その日が来たら、どうか俺を裁いてくれ。
兄貴なんかいらないと捨ててくれ。
そしたら、俺は…消え去ろう。
すべてをおまえに残して、跡形も無く…
どの男よりも、強く、おまえの中に残る存在になるために…
第一部、完。
第一部「イリュミナシオン」は終わりです。
第二部は「オレミユス」の予定。
暫くお待ちください。




