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酔いが回り、つぶれた凛一を部屋へ帰るように促しても起きないから、俺は凛一の身体を抱きかかえて連れて行くことにした。

「あ、お姫様だっこだあ〜」赤い顔をした凛が足をバタつかせる。

「じっとしてろ。床に落っことすぞ」

「は〜い」

「おまえがこんなにお酒に弱いとは知らなかったよ」

「未成年に飲ませておいて良く言うねえ〜今から少しずつ覚えればいい話だよ」

「そりゃそうだけど…と、言うか、おまえ、軽すぎないか?」

「ん?」

「体重だよ」

「ん…50無いよ」

身長は確実に伸びているのに50キロないなんて、痩せすぎだろう。

もっと料理のレパートリーを増やして、こいつの食生活の管理をキチンとしなきゃならない。

「ねえ慧、聞いて?」

「聞いてるよ」

凛は俺の首に両腕を回してご満悦そうな顔で俺を見る。

「俺、随分セックスしてないよ」

「さっきも聞いた」

「慧も恋人居ないっていったよね。じゃあ、俺たち恋人にならない?」

「俺たちは兄弟だろ?」

「じゃあ、寝るだけでもいいじゃん。慧、俺とセックスしようよ」

「…やだよ」

「なんで?」

「酔っ払いのたわごとには付き合えない」

「慧は俺を好きだろう?愛してるって言ったじゃない。兄弟でも好きなら寝たいって思っても不思議じゃないよね。男同士なら子供は出来ないし、一回ぐらい寝てもいいんじゃない?」

「凛、そういう話、やめにしないか」

「なんで?」

「俺はおまえを愛しているけど…セックスの対象にはしたくないんだよ」

「どうして?」

「…弟だからだよ」

「…」

凛は黙り込み、少し拗ねた顔で俺を睨んだ。


凛一の部屋のベッドに、凛の身体をそっと置く。

艶やかな黒髪が薄いブルーのシーツに広がった。

赤く染まった目元や頬が、秀麗な凛一の横顔を不思議と清楚に魅せている。

俺は息を止めてそれを見つめた。


挿絵(By みてみん)


「慧…」

「なに?」

「どうしても駄目?」

駄目という言葉が何を意味しているのかは理解している。

凛、俺は困ってしまうよ。

おまえにそんな目で懇願されると、折角決心した心が揺らいでしまう。

黙っていると、片腕を自分の目元に押し当てた凛一が、もう片方の手を俺に差し出した。

俺はその手を取った。

「時々…眠れないんだよね。寝たらあの時みたいに…慧は月村さんじゃないのはわかってるけど…俺の傍から消えていってしまいそうな気がして…俺、臆病だからさ…」

凛一が何を求めているのかはわかっていた。

俺は凛一の右手を絡ませ、口づけた。

「大丈夫、俺はここにいる。凛一の傍から離れない」

「…本当に?もう俺をひとりにしない?」

「誓うよ。絶対だ」

腕を離した凛一の黒い瞳が俺を見つめた。

「じゃあ、誓いのキスして」

「…」

正直キスで良かったと胸を撫でおろした。

セックスでも強要されたら、この状況では俺もやりかねない。

やったところで、俺も凛一も後悔するのは目に見えている。


俺は凛一の前髪を払い、額にキスを落とした。

凛はつまらなさそうに口をへの字にすると「赤ん坊じゃないんだからさ。口と口でやんない?」と、言う。

困った弟だと諦め、今度は口づけると、凛は当たり前のように舌を差し入れ、逃げないように俺の後頭部を押さえ込んだ。

諦めた俺は凛の思い通りに任せることにした。


凛一の口内も吐く吐息も、飲んだワインよりも甘く純度の高いアルコールの香りがして、うわばみの俺でも、酔いつぶれてしまいそうだ。


濃厚なキスを味わって気が済んだのか、凛一は口唇を離し、満足そうに微笑むと目を閉じ、そのまま静かに寝息をたて始めた。

絡ませた指の力はまだ弛めていない。

俺はその寝息を確かめ、凛一のどこか切なげな寝顔を見つめ続けた。

そして…ついに感情が押し流されてしまう。


神様…キリストでも仏陀でもムハンマドでも…誰でもいい。

どうか、凛を…凛一を救ってくれ。

降りかかる災いのすべてを振り払って、この子を守ってくれ。

俺の幸せなどどうでもいい。

凛だけには…本当の幸福を与えてやりたい。

それだけだ…

それだけで俺は…救われるから。


俺は一心に祈った。

どこかの酔っ払いのメリークリスマスと言う歓声が、窓の外から微かに聞こえていた。



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