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凛一の最後の電話から、もうまる二日経つ。

あれから嶌谷(とうや)さんは自分が責任を持って凛一と月村という男の居場所を突き止めると言って聞かなかった。

俺も一緒に探させてくれと頼み込んだが、よくよく考えれば、俺とその月村は何ひとつ係わり合いがないんだから、連絡しようにもこっちの身元が信用できないだろう。

だとしても俺も気が気ではいられるはずも無く、何時も気も休めずに携帯電話を睨み続けていた。


その夜遅く、電話が鳴った。嶌谷さんから月村の別荘の住所がわかったという知らせだった。

そこにいるとは限らないが、今から車を走らせるという。勿論俺も乗せてくれと頼み、深夜4時、自宅まで迎えに来た嶌谷さんの車に飛び乗り、俺たちは長野に向かった。


月村の別荘は蓼科の八ヶ岳付近で、車で約4時間弱を要する。

俺は運転の交代を願い出たが、嶌谷さんは車の運転は趣味だといい、断られた。

「今まで仕事だったんでしょう?居眠り運転でもされたら俺が困る。遠慮なく言ってください」

「…おまえら兄弟は本当に他人に甘えるのが下手だね〜こういう時は大人にまかせときなって」

「俺は十分大人なんですけどね」

嶌谷さんの物言いはこの間と違ってかなりくだけた言い方になって、俺も自然とひきずられる。

「身体ばっかり大人になっても心はどうだかね〜天使系一族じゃないのかい?宿禰家の皆さんは」

「天使と悪魔は二律背反ですよ」

「…慧一君は自分を悪魔とでも言いたいのかい?」

「…そうかも知れない」

俺が天使になんてなれるわけが無い。対岸の果てにいる気がする。

それでは天使の凛一とは永久に逢えない…そういうことなのか…

エンジン音が僅かに高く響いた。高速に乗った車体がスピードを上げる。

最後の闇を楽しんでいるオリオンのペテルギウスと火星の赤色が僅かに見えた。


車のオーディオから静かなジャズが流れる。場所が場所ならジンでもかっくらいたい気分になる。

俺の気を読んだのか嶌谷さんが「慧一君はお酒はいける方?」と聞くので、「ざるですよ」と答える。

「凛一はあまり飲まないね。酒に酔うのが嫌いらしい。凛らしいといえばそうだがね」

「…」

凛一が酒が強くないとは知らなかった。と、いうよりも俺はこの人よりも凛一を事を知らないんじゃないのか。本当の凛一を知るために、この人の話をもっと聞きたいと思った。


「嶌谷さん、凛一がどんな顔であなたの店で過ごしていたのか教えていただけますか?俺はそれを知らなくちゃいけない気がする。凛が連絡先をあなたに指定したのは、俺に知って欲しいという思いもあったんじゃないでしょうか」

嶌谷さんは暫く黙り、そして口を開いた。


「そうだね、話は長くなるけれど、着くまでには終わるだろうよ。眠気覚ましに俺の話でも聞くかい?」

「お願いします。無事故を祈りながらありがたく伺いますよ」

嶌谷さんは口端で笑いスピードを上げ、数台の車を追い越していく。


「俺がゲイなのは知っているよね」

「…はい、雰囲気でわかりました。俺もそうだから」

「慧一君がゲイって話は凛一から聞いていたんだが、君はそんな風には見えないね。相当したたかなのか、気配を隠すのうまいのか…」

「別に隠しているわけじゃないんですが、そうですね。いつも偽りの世界で生きてるようなもんですから」

「偽りの世界ね…多かれ少なかれ誰だってそういうのは持っているもんだが、俺たちはまた特殊かもしれないね…煙草いいかな?」

「ええ、構いませんよ」

嶌谷さんはマルボロを咥え、火をつけた。



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