【短編】パーティーから戦力外通告を受けた僕は、それでも王都で待ち続ける。
習作として書いてみました。
起承転結を意識しましたが、構成上インパクトが弱いものとなってしまいました。
それでも、色々考えながら作り上げるのは楽しいの一言でした。
そんな作品を、皆さんに読んで楽しんで頂けたら嬉しく思います。
「クイン、前から考えていたんだが、今の君には俺たちのパーティーは荷が重いと思うんだ」
突然言われた言葉に僕は………まぁそうだろうなと思った。
僕にそう告げた男、イングリットやテーブルを囲んだ他の面々にも、苦渋の決断と言う言葉が似合うほどの表情が伺えた。
「そうだね。最近の僕はイングリットのフォローにも一杯一杯で、着いていくにもきつい状態だったしね」
僕の加入しているのは、イングリットがリーダーである【ホーリー・サバイバー】と言うパーティーで、そこは王国最強の魔王討伐パーティーであり、何とそのパーティーの前衛を任されていた。
必殺技でトドメを刺すイングリットの為に突撃して敵を引きつけて隙を作ると言う、誘い込みや囮役を任されている。
メンバーの中でも最初期からいた僕は、イングリットや他のメンバーからも信頼は厚く、時には励まし合い、時には相談に乗る事もあった。
しかしここ最近、魔王の城に近づくにつれて敵の猛攻で僕がついて行けれなくなる時が多くなって来た。
仲間からの支援や援護を込みにして、やっと対等に渡り合えると言った具合だ。
これは、仲間の皆の成長に僕自身がついて行けてない表れでもあった。
「だから君には、ここから先の旅には連れて行けない事を許して欲しい」
「…………僕の代わりはいるのかい?」
苦渋の決断をした仲間に対して、酷い事を聞いてしまった僕を許して欲しい。
「君ほど速くもなければ器用さもないが、頑丈な盾役を用意してある。君の負担を軽減する為のサポートを入れると言う案もあったけど、それだとイタチごっこにしかならないからね。思い切って戦闘スタイルを変える事にしたよ」
なるほど、そこまで話が進んでいたんだ。って言うか用意周到じゃないか。
恐らく僕抜きで皆と相談したんだろう。じゃないと、スムーズにここまで話が進むはずがない。
なら僕も覚悟を決めるしかないね。
「こんな決断しか出来なかった俺を罵ってくれていいんだぞ?」
「いや、イングリットの言うことも最もだし、僕もここで駄々をこねるほど子供じゃないつもりだよ。その代わりきっちり倒して戻ってこいよ」
「あぁ、そのつもりだ。クイン、今までありがとう」
そして僕は一人一人に挨拶をしてパーティーを去った。
それから数ヶ月後、僕は王都に戻り冒険者ギルドに登録して細々と生計を立てていた。
元々王都で結成されたパーティーだけあって知名度も高く、初期メンバーの一人であった僕の名前もある程度知れ渡っていた。
その僕が一人で戻ってきた時は、何事かと騒がれたものだ。
城へ登城して国王陛下に説明し理解を貰えたけど、市民の間ではイングリットが勝手に追い出しただの、僕が逃げ出しただの勝手な憶測が飛び交ってた。
一応イングリットや王様からそこそこの慰労金は貰っているから暫くはダラダラしてもいいんだけど、それだとダメ人間になりそうだから色々動いてみた。
けど、それは想像以上に困難だった。斧を持って木こりをしようにも、剣より重くて継続的に振り続けることが出来ないから脱落。
ならばと包丁を持って厨房に立つも、小さい頃からイングリットと外で棒切れを持って走り回っている僕には到底無理だった。
その他色々試すも、ことごとく長続きせずに挫折して、結局はまた剣を腰に携える事になり冒険者として第二の人生を歩む事になった。
「クインさん、訓練をつけてほしいと言う方が沢山来ています」
「いいよ、訓練場に向かうね」
そんな魔王討伐メンバーから外された僕だけど、市民の色々な噂とは違ってギルドの職員や冒険者の人たちの受けは結構良かった。
それもこれも最前線から戻ってきた僕の実力が、ギルドの中ではトップクラスと言うのも一因している。
腰抜けと揶揄する人もたまにはいるけど、最終的には実力で黙らせる事になる。
そして、採取や周辺の魔物の討伐を繰り返しているうちに次第に僕の役目は変化していった。
「よろしくお願いします」
「よろしく、準備が出来た人から順番においで」
「じゃあ俺から行きます」
それがこの訓練だ。
ギルドに登録したばかりの駆け出し冒険者だけでなく、さらに上を目指す中級冒険者も参加している。
そしてたまにだけど、王国一番を自負している猛者も挑戦してきた。恐らく僕を通して魔王討伐パーティーの実力を計ろうとしているんだろうとしているけど……。
「つ、つえぇぇ」
「これでパーティーを離脱した人の実力だとしたら、最前線の奴らはどんだけ強いんだよ」
ぶっちゃけここの冒険者が束になってかかって来ても、僕は勝てる自信がある。
それ程最前線は苛烈だと言う事を知ってほしい。
イングリットは今どの辺りにいるんだろう、大きな怪我なく進めているんだろうか。
魔王を倒したら、また君の隣に立つ事を許してもらえるだろうか。いや、まずは無事に帰って来る事を願おう。
久しぶりに昔の夢を見た。パーティーを作る直前の夢だ。
イングリットと僕は片田舎の小さな町で生まれ育ち、よく一緒に遊んだものだ。
「俺はいつか魔王を倒す!」
「じゃあ僕も一緒に着いて行くよ! イングリットほど強くは無いけど、サポートくらいは出来ると思うんだ」
「クインがねぇ。俺としては、この町で留守番して帰りを待っていて欲しいんだけどなぁ」
思えばこの時からイングリットは僕の同行には難色を示してたっけ。同行を許してから王都に向かう直前にも、「本当に?」って何度も聞いてたな。
そう考えると、ずいぶん前からイングリットに負担をかけていたのかもしれない。その負担が抜けた今は、攻略が捗っているのかな?
複雑な気持ちだけど、それで安定するのなら僕が悩む必要なんてないね。
今の僕の役わりは、王都の人達と帰る場所を守る事だ。
「クインさん、お手紙が来ていますよ。【ホーリー・サバイバー】からです」
「イングリット達から!?」
「クインって本当にメンバーだったんだな」
「後で訓練場に行こうね」
更に数ヶ月経ったある日、イングリットから手紙が届いた。
どうやら旅は順調らしく、この手紙が届く頃には魔王城に突入するそうだ。
手紙の事を国王陛下に報告すると、同じく受け取っていた。それもそうだ、急いで登城した自分が恥ずかしい。
それにしても、僕が一緒に旅をした仲間が遂に魔王城にまで辿り着いたのか。そう思うと、感慨深いな。
けれどそれ以上に、大事な決戦にイングリットの隣にいれなかった自分の不甲斐なさに、悔しさと悲しさを覚えた。
イングリット達は強い、恐らく既に魔王を倒してしまっただろう。
倒した後は、魔法使いの帰還魔法で一気に帰ってくるだろうか。それとものんびりと帰って来るんだろうか。
どこかに腰を落ち着けるにしても、一度国王陛下に報告しに来るだろう。
僕は素直に祝福出来るだろうか。
「最近、魔物強くなってないか?」
冒険者ギルドで最近話題になっている。
いや、冒険者ギルドだけじゃない。商業ギルドや街を行き来する旅人達、それに一般市民の間でも話題に登るほどだ。
それと言うのも、王都周辺は冒険者や王国兵が定期的に討伐しているため、よほど山や森の奥深くへ行かない限り街道沿いでは出ないのだ。
それがここ最近、護衛依頼や定期的な討伐依頼で負傷者が増えて来ているせいだ。
けど、僕はこの現象に心当たりがあり、それをギルドに報告しようとした時にそれは起きた。
「魔王軍が攻めてきたぞ、救援を頼む!!」
「どう言う事だ!?」
一人の王国兵が叫びながらギルドに飛び込んできた。
その一言でギルドホールが一気に混乱に陥る。
それはそうだろう。何せ魔王の城から一番遠く、魔王軍とは無縁の場所と思っていたんだ。
そしてついこの間、イングリット達から魔王城へ乗り込む手紙を貰ったばかりなのに、その魔王軍が攻めて来たと言うんだ。これで混乱しないわけがない。
けれど、混乱している場合じゃない。
「皆静まるんだ!」
思いっきり机を叩いて叫んだ。
こんな時こそ最前線で戦ってきた度胸と、判断力が役に立つと思うんだ。
「兵隊さん、実際にどのくらいいましたか? その中に魔王っぽいのはいましたか?」
「少なく見積もっても一万はいるかと。魔王がどんな姿かわかりませんが、見た限りですと、一本角の一回り大きい魔物が一体だけいました」
魔王じゃない、幹部だ。
推測しかできないけど、魔王自ら囮となってがイングリットたちを引きつけている間に、幹部が王都を滅ぼそうとしているってことか。
作戦としてはオーソドックスだけど、上手い。魔王自ら餌役をやるとか、魔王軍の半分の強さもない王都の兵の事を理解しているやり方だ。
そして、王都では見たこともない様な魔物に混乱する兵達の指揮にも影響してくる。
「敵の大将は魔王ではありません、それは幹部です」
「魔王でも幹部でも似た様なもんだろ! もうお終いだ!」
王都暮らしの人達にしたら、絶望には違いないか。
けど、それならまだ勝機はある。
「大丈夫です。魔物の見た目こそは禍々しいですが、数で当たれば対処は可能です」
向こうが一万ならそれ以上で当たればいいだけだ。
「幹部の相手は僕がします」
魔王軍は幹部以外は全てただの魔物だ。
それだけで王都を陥せると踏んだのだろう。
魔王の目的は城に封印されている宝玉だろう。それさえ奪うことが出来れば、例え魔王が死んでも復活することが出来るし、宝玉の力で更に力を増すこともできる。
それだけは何としても阻止しなきゃいけない。
「クイン、大丈夫なのか?」
「魔王じゃないなら、何とかって感じですね」
「わかった、俺らも腹を括るぞ!」
おぉぉぉぉぉぉ!!!
こうして、突如現れた魔王軍に気後れする事なく迅速に準備が進められた。
僕が王都に戻ってきたのは、奇跡とも言えるはず。今まで通り冒険をしていたのなら、魔王を倒しても帰るところを失っていただろう。
この奇跡に感謝はするけど、これ以上は期待できない。だから万全の準備をもって挑んでやろう。
王都の平原に王国兵数万が展開し、魔王軍を正面から迎え撃っている。
それに対して僕らは馬に跨り、魔王軍の手薄な所を一点突破で突き進んでいた。
「クインに敵を近づけさせるな!」
「幹部の所まで傷一つつけさせるな!」
体格の一番いい冒険者が槍を持って先陣を切り、その両脇を固める様に他の冒険者達が並び突き進む。
僕はその中心で守られる様に走らせているだけだ。
「皆、無理しないで!」
「何言ってる、ここで無理しないでいつするってんだ?」
「そうっスよ、クインさんが幹部を倒してくれたら全部解決なんっスから!」
けど皆既に傷だからけで、一人一人と脱落して魔物に呑まれている。
いくら手薄な場所と言っても、魔物にとって異様な存在がいれば群がって来る。後ろから囲まれる前に幹部へ迫りたい。
「クイン、群れを抜けるぞ!」
「ありがとう、ここからは僕が行く!」
馬を加速させ、先頭を抜いて残りの魔物を蹴散らし遂に幹部に迫る。
鎧を漆黒の闇に塗り潰し、まるで自分こそが全てだと言わんばかりに堂々とした佇まいに、異様な雰囲気を感じた。
そして、僕はこいつを知っている。
「魔王軍最強幹部、ベルディス! その首貰ったぁぁ!」
「ふっ人間風情が! な、貴様、なぜここに!?」
人間がここまで来るのは想定内だったんだろうけど、そこに僕がいるのは想定外だったようだ。
慌てて僕の剣を弾き、正面に向き合う。
「【迅雷】のクインか。姿を見ないと思えば、王都にいるとはな。障害にはなるが、結果は変わらん」
「奇襲には驚いたけど、好きにはさせないよ。【迅雷】の名の通りに行かせてもらうよ」
そう言うと、一瞬にしてベルディスに詰め寄り斬りかかる。
相手にしてみれば突然目の前に現れた様に見えただろう。ベルディスの強みは一撃必殺の攻撃力、その攻撃を喰らわなければどうと言う事はない。
「ちょこまかと!」
小柄な体格と雷鳴の如き速さで、ベルディスを翻弄させる。自慢の大剣を振るうも、僕の体をかすりもしなかった。
最前線から離れてしばらく経つけど、体は十分動けているし幹部相手にも着いていけていると感じた。
そう感じているだけで、明確な問題が浮き彫りになってきた。
「硬い」
懐に入り剣を振るうも、ベルディスの防御力と僕の攻撃力の低さで、決定打に欠けていた。かと言って加勢を頼んでも、無駄に死者を増やすだけだ。
そしてその均衡が遂に破られた。
「掴んだぞ!」
「なにっ! ぎゃぁあっ」
少しずつダメージを蓄積させて膝を着かせたと勘違いした僕が首を狙うと、ベルディスが片腕を犠牲にしてまで剣を受け止めた。
これが罠だと気づいた瞬間には既に遅く、片足を掴まれ激しく地面に叩きつけられた。
「がはっっつつ」
肺の中の空気が全て吐き出され、咳き込みながらも体制を整えようとするけど、意識が朦朧として足がおぼつかない。
身体が痛すぎる、左腕が動かない。骨が折れたかな。おまけに、握っていた剣もどこかに飛ばされてしまった。
たった一撃でこの様とは情けないにも程がある。
「勝負あったな」
「クイ@$!」
「クイ#%*! sy#@%&!」
こっちはボロボロなにのに、向こうは腕一本。ちょっと割りに合わないな。
遠くの方で僕を呼ぶ声が聞こえるけど、鼓膜が破れたのかよく聞き取れない。
いけない、構えないと……僕が立ち上がらないと、他の皆に矛先が向かってしまう。
「まだ……だよ」
「ほう、まだやるか。既に自慢の速さは失われていると言うのに」
腰の予備のナイフを残った片手で構える。けれど、目の前の巨大な敵には余りにも頼りない。
それでも、心の刃は常に相手の喉笛を掻き切るように研ぎ澄ましているつもりだ。
「僕に……は……やり残した……事が………あるんでね」
「覇気は失っていない様だな。しかし、それだけだ。お前さえ殺せば、宝玉は手に入る。そうすれば世界は我のものだ」
朦朧としている意識の中でおかしな事を聞いた。
我のもの? どう言うことだ?
「どう言うことだ、何を言っている?」
てっきり宝玉を持ち帰って魔王を復活させるとばかり思ってたが、どうやら違っていた様だ。
「何、簡単な事だ。魔王様は『宝玉を手に入れろ』としか言っていない。『差し出せ』とまでは言っていないからな。今頃貴様の仲間に倒されている頃だろう。そして、次は私が魔王になる番だ」
要するに、揚げ足を取って出し抜くつもりだったと。
「ふふふふ……あはっははは!」
思わず大声で笑ってしまった。自分の声で身体が軋む事すら構わず、腹を抱えて笑う姿にベルディスどころか仲間達も戸惑ってしまっている。
「何がおかしい?」
「あぁ、ごめんね。余りの小物な発言に笑いを堪えきれなかったよ」
「何だと? この私が小物だと言うのか!」
「わからないかな。人の言葉尻を捉えて、コソ泥のような考えをさ、さも得意げに話すなんて小物も小物さ!」
「貴様、今すぐ肉塊にしてやるわ!」
大剣を構え直し、僕を睨みつける。
さて、ここからが正念場だ。ベルディスがペラペラ喋ってくれたから体力だけは回復した。
更に、片腕で振り回す剣筋は単調だで、今の僕でも何とか躱す事ができた。
しかも、ベルディスや魔王の計画には欠点がある。それをこれから証明してやるさ。
「ふんっ、避けるだけで何も出来ないではないか! 大人しくやられておけ!」
「わかってないね、なら宣言するよ。ベルディス、君はもう直ぐ僕にやられる」
そう言って不敵に笑う僕に、ベルディスは憤怒に塗れた醜悪な殺意をぶつけて来る。
その剣圧だけで僕の体は更に傷が増え、いよいよ足元もおぼつかなくなってきた。
「やはり戯言の様だったな。その首を持って仲間の元に晒してくれよう」
「それは僕の台詞だよ」
そう言って僕は最後の力を振り絞って大地を蹴る。
それは相手を翻弄するような駆け引きもなく、正真正銘の真っ向からナイフ一本で躊躇なく首を狙いに行った。
大丈夫、疑いもしない。むしろ、これから起きることへの全幅の信頼を向けるが故の一撃だ。
そしてその時は直ぐに来た。
「クインティアーーーーーーーーーーーーーー!!」
ほら来た、直ぐ頭の上から光る転移魔法陣と、僕の名を叫ぶ聞こえる声。
いつも連携を息ぴったりに合わせてくれるから、心配はしない。
しかも、何も言わなくても察してくれる。
僕の頭上に迫った大剣が声の主の一撃で斬り飛ばされる。
もちろん、加速は緩めたりはしない。だから何の迷いもなくナイフを喉元に突き立ててやった。
「がぁぁぁっぁぁっぁぁぁぁ!!!!???」
ベルディスが突き立てられたナイフを引き抜きもがくが、既に遅い。
それは本人も悟ったんだろう。憎々しげな眼差しで『僕たち』を見た。
僕の周囲には【ホーリー・サバイバー】がいて、イングリットが僕を支えてくれていた。
「どうしてここにいる事がわかった。魔王様は口を割らなかった筈だ」
「あぁそうだな、魔王は最後まで言わなかった。しかし、あの場に貴様がいない事が既に違和感なんだよ。だから転移魔法で戻ってきたまでだ」
「どいつもこいつも道化ばかりかよ……」
ベルディスの今際の際の質問に、何を当たり前の事をとイングリットはサラッと答えた。
そう言う事だ、魔王の次に強い幹部が傍に控えていなければ、何かあると考えるのが当然だ。
そうなれば、一番取られてはいけない宝玉のところへ戻るのが当然だろう。
だから例えあの場で殺されても、イングリット達が間に合えば最悪の事態は回避できると踏んでいた。
「クインティア、すまない。君をこんな目に合わせてしまった」
「何言ってるのさ、間に合ったじゃないか。それに君のせいじゃないだろ?」
おかしな話だ、別に彼のせいじゃないのに涙目になりながら謝ってくるなんて。
そんな思い詰めた彼には、戯けた感じで返してやるくらいがいいかもしれない。
「それにさ、僕がいたからこそ王都が守れたと思わないかい?」
「確かにそうなんだけど……」
「それと呼び方ねっと」
魔法使いに回復してもらってやっと立てる様になり改めて周りを見ると、あれだけいた魔物はまるで蜘蛛の子を散らす様に方々へ逃げて行ってしまっていた。
魔王や幹部が倒れてしまい、従う主人を失ったせいだろう。
そうなれば、あとは冒険者達がじっくりと残党を狩るだけだ。
「あ、そうだ。おーい皆!」
すっかり忘れてた。
一緒に着いて来てくれた冒険者の皆をイングリット達に紹介しないと。
「いや、それ以上に疑問に思ったんだけど」
ん、どうしたの?
冒険者の皆が冷や汗を流しながら恐る恐る聞いてくる。
「クインって女だったのか……?」
「そうだよ、黙っててごめんね」
それから半年後。
僕は今またイングリットの隣に立っている。一度は必要とされなくなったと思っていた僕だけど、再びイングリットは隣にいることを許してくれた。
いや、言い方がおかしかったかな。イングリットから僕を必要と言ってくれた。
あの後、幹部を倒して国王陛下に報告し、僕らは王都で凱旋をする事になった。馬車の幌を外し、上半身を乗り出して国民の声援に皆で答える。
そんな折にイングリットが僕の前で突然言い出したんだ。
「クインティア、君を本当は村から出したくなかった。綺麗な君を身生臭く過酷な旅に連れて行きたくなかったからだ。君が『これが覚悟だ』と言って女神の様な長く煌めく髪を切った時は、正直ショックを受けたよ。そんな君は同行を許してからどんどんと実力を伸ばしたね。常に俺の前にいてチャンスを作ってくれた。けど、それが苦痛でしょうがなかった。だから……」
「長い、長いよイングリット。もっと短く言えない?」
「……俺と生涯を共にして、ずっと隣にいてくれ」
「身体中日焼けして、他の娘みたいに白くないよ?」
「苦楽を共にした俺とお揃いだから気にしない。気になるなら国中の化粧品を俺が持って来よう」
イングリットが言おうとしている事を察している。
けど何故か自分を否定する言葉ばかり口にしちゃう。
「……イングリットはロングヘアが好きって言ったよね?」
「また俺好みに伸ばしてくれるかい?」
「…………言葉遣い……荒いよ?」
「それも君の魅力の一つだよ」
僕が何を言ってもイングリットが肯定的に返して来るのは知っている。
何故って、誰かが言っていた。僕がイングリットの事を話す時、いつも自分の事の様に楽しそうって。
それってお互い様って事だよね。
「………………剣しか持った事ないから、料理は最悪だよ?」
「俺と一緒に習いに行こう、一緒に作れば美味しさ二倍かもしれない」
君はいつもそうだ。戦っている最中も、終わった時も僕を気にかけてくれる。
怪我をしようものなら、真っ先に治癒をかけろと言って仲間に怒られてたね。
今思えば、仲間にも既にバレていたんだよね。じゃなきゃ、僕ら二人ヤバい奴らになっちゃうよ。
僕もね、言いたいんだよ。けど、もっと綺麗で聡明な娘がいるんじゃないかって思っちゃうんだよ。
「ぐすっ…………イングリットにはもっと似合う娘が……」
「言わせない! 君が、クインティアがいい! クインティアを愛してるんだ! 結婚してください!」
「ふえぇぇぇ……ぐすっ、僕もイングリットが大好きだぁぁぁぁぁ!」
我慢していた涙が止めどなく溢れ出す。
一方通行ではないとは思っていたけど、確かめる事が怖かったり、思い込みで拒否されるのが怖かった。
けれど、それも全て過去のものとなった。
凱旋で、国民の見守る中で大泣きしながら告白した事は、素晴らしき黒歴史となって心の中に刻み込まれた。
そして今、僕とイングリットは純白のドレスとタキシードで教会にて大勢に祝福されていた。
魔王を倒した英雄と、王都を守った英雄。
僕たち二人が結婚したことを周辺諸国に喧伝し、政治利用する事なんて正直どうでもいい事だ。
「髪、だいぶ伸びたね」
「まぁね、手入れも欠かせてないしね」
「どんな髪型でも似合ってるよ」
いや、だから皆の前でそれは恥ずかしいってば。
けどね……
「そう言うイングリットが大好きだよ!」
王都中央の噴水広場にて。
「お婆ちゃん、この男の人と女の人の銅像って何?」
穏やかな日差しの中、普段は誰も見向きもしない銅像を小さな子供が何気なく聞いてみた。
先の戦いから百年、人々の記憶に埋もれ歴史書の中でしか語られなくなったあの戦い。
それを直に語れるものは殆どいない。
「この二人かい? じゃあ少しだけ話そうかねぇ。それはもう百年も前の事だよ……」
老婆はぽつりぽつりと話し始めた。
それを語り継がせるように、言い聞かせるように……
如何でしたでしょうか。
最近世に溢れている追放や戦力外なお話とは違う内容ではありますが、楽しんで頂けたのなら嬉しいです。
以下おまけ
作戦会議にて
「イングリット、どうした?」
「どうせまたクインの事でしょ?」
「ちょっと、いい加減貴方の私情を挟まないでもらえる?」
「皆すまない、そのクインの事なんだが……」
「どうした、さっさと話せ」
「最近やっぱり肌と髪が荒れている気がするんだ! どうしたらいい?」
「「「緊急会議、クインをいかにしてイングリットから離すか!!!」」」
「イングリット、おめぇやべぇよ……」