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2話 【スマホ】復活のカギは休むこと

 私の魔導器【スマホ】がなにも反応をしなくなった。


 畑仕事……というより、畑破壊を終えて、全身ずぶ濡れになったおじいちゃんとカイリトス。


 その二人と合流して、家に戻り、おばあちゃんが作ってくれた朝ご飯を食べる。


「私の魔導器、壊れちゃった……」


 ようやく使い方がわかったのに。


「おばあちゃんにはよくわからないけど魔力切れってやつかい?」

「……わからない」


 ようやく、本当にようやく使い方がわかったのに。

 たかが地図だけど、一般的な紙の地図と違って、これがあれば迷わないって思えるぐらい、自分と一緒に移動する地図だ。

 方向音痴なつもりはないけど、これがあればどこでも迷わない。


「今日はゆっくり休みな」

「でも……」

「昨日、学院を卒業したばかりなんだし、少しぐらいゆっくりしたって罰は当たらないよ。ほら、春休みみたいなもんだよ」


 そう言われると、学院にいた時は季節の休みがいっぱいあった。

 でも、学院を卒業すれば春休みなど関係がない。

 休み明けに学院に行くことができないのだから、きっと早い人は魔法使いとして働いている。


「そうだね。今日はどこにも行かず、のんびりお昼寝でもしようか」


 さっき起きたばかりな気もするけど、ソフィーが気を使ってくれているのがわかるので、私は頷くしかなかった。




 食後、私はソフィーとカイリトスと、川の近くへと足を運んだ。

 木漏れ日の下に腰かけて、川のせせらぎに目をやる。


「ふわぁー、落ち着く」


 水の流れる音と、どこかで鳴く小鳥のさえずり。


「ねえ、カイリトス」

「ん?」

「学院卒業してさ、これからのこと、なにか考えてる?」


 いつもはカイリトスに意見を求めるようなことをしないソフィーが訊ねる。

 私は黙ったまま、カイリトスがなにを言うのか、あまり期待をせずに言葉を待つ。


「村に帰るかどうかって話か?」

「それを含めての今後」

「……そうだな。俺は元々、村を出て、魔法学院に通って魔法使いになるってのに、特に興味はなかった。二人が行くなら俺もってだけだったな」


 昔から三人一緒。

 どこに行くにも、なにをするのに。

 いつも三人セットだ。


「学院に通ってからは、俺は勉強は苦手だし、体動かす方が楽しいし……。まあ、魔法なんてなんでもよかったんだけど」

「だけど?」

「がんばってるメリアが誰かにバカにされるのは許せなかった」


 普段からなにも考えてないカイリトスだからこそ、そんな真っ直ぐな言葉が出る。

 それがわかっていても、やっぱり言葉にされると嬉しいんだ。

 誰かが見てくれていることも、誰かが応援してくれていることも。

 ランクEの最低な成績でも、めげずに三年間学院に通えたのは、応援してくれる祖父母だけでなく、この二人の影響も大きい。


「だから俺は、二人がなにをしたいかってのを聞いてから決める」

「無責任だね、相変わらず」

「俺に責任感なんてあると思うか?」

「そうだった」


 ふふ、とソフィーは笑う。


「そういうソフィーはどうなんだ?」

「私? 私も魔女なんて正直、どうでもいい。メリアとカイリトスといられて、楽しければ、それで」


 それに、とソフィーは続ける。


「私たちの村なんて、田舎過ぎて魔女の脅威なんて微塵もないから、魔法使いになって村を守るなんてことも必要ないもんね。家に帰って畑仕事したり、家畜育てたり、狩りをしたり、そういう方が役立つでしょ」


 この三年で忘れていたけど、ソフィーは弓を使って狩猟をしていた。

 それが得意な魔導器に影響を与えていても不思議はない。


「じゃあ、俺たちをここまで連れてきた張本人の意見を聞こうじゃないか。なあ、メリア」


 カイリトスが私を見る。


「……私は」


 そうだ。

 私が村を出て、魔法使いになりたいと言ったから、この二人はついてきてくれた。

 いつも、私は二人の後ろを追いかけてばかり。

 それも、遅い私を気にして、何度も足を止めて、何度も手を差し伸べてくれる。

 そんな二人と一緒にいて、その背中を追いかけるのが当たり前だった私が、初めて自らどこかに行きたいと言ったのだ。


「村にいても、なにもできなくて迷惑ばかりかけてる私だけど……大きな都市に出て、魔法の学院に通って魔法を学べば、私でも一人前の魔法使いになれるんじゃないかって思ったんだ……」


 でも、結果は最低ランク。

 そのうえ、もらった魔導器も使い方がわからない。


「でもね、それだけじゃないの。村を出て、おばあちゃんたちとずっと一緒にいて、人の多い都市では、数は少ないけど魔女の脅威があるって知った。村にいたら知らなかった」


 直接、被害が及んだことはないが、村ではまったく耳にしなかった魔女の噂や、その影響による被害が、都市の一部で出たことが、この三年で二度ほどあった。

 もっと大陸の内陸に向かっていけば、その影響や被害も多くなるのだろう。


「滅多に会うことができなかったけど、優しいおじいちゃんとおばあちゃんを安心させてあげたい。魔女を全部倒して、平和な世界なら、誰も怯えなくてすむ。そう思ったんだ……私なんかが」

「メリアだからでしょ」「メリアだからだろ」


 ソフィーとカイリトスがそれぞれの言葉で同じことを言う。


「誰よりも優しいし」


 言葉が被って恥ずかしかったのか、ソフィーがカイリトスの頬を引っ張っている。


「それにお腹が柔らかい」


 そう言いながら、妙な手つきで私のお腹に抱きついてくるソフィー。


「ちょっと、くすぐったいよ」

「おい、いちゃつくな。俺が混ざれなくて寂しいだろ」

「そんな都合知らないわよ。ほれ、うりうり~」


 カイリトスを冷たくあしらいながら、私のお腹に顔を埋めるソフィーの髪の毛がくすぐったい。


「くすぐったいー」


 くすぐったくて笑ってるだけなのに、笑顔になれただけで少し気が楽になった。

 いや、もしかしたら、弱音を言葉にしたからかな?

 それとも二人の気持ちを知れたからかな?

 よくわからないけど。


「ありがとう」


 この【スマホ】のこと、もっと知って、ちゃんと使えるようになりたい。

 すっかり癖のようになってしまっていたのか、細長い横棒のボタンを押す。

 すると、画面に光が戻った。


「あれ? 直った!?」

「本当だ。よかったね」

「でも、なんでだろう……」


 画面を覗き込んだソフィーの目にもしっかり見えていて幻覚ではないのだと安心する。


「なあ、ここに数字が書いてあるぞ。『21』って」


 カイリトスが【スマホ】の右上を指さす。

 そこには小さな数字があるが、『20』に減った。


「もしかして……これってカウントダウンみたいなもの? 連続で使えない制限みたいな」

「聖剣にも聖なる力が宿り続けるのには時間制限があるっていうしね」


 聖剣なんて持てる人間は限られているので、本格的な説明を授業では受けておらず、講師の先生の雑談でそんなことを言っていた記憶がある。


「つまり、使うとこの数字が減って、使わないで置いておけばこれが回復するんだ!」


 これまたすごい発見だ。

 私の【スマホ】は壊れてなんていなかったんだ。

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