第八章 狐とスライム
時は朝。
場所は小屋近くの平原。
「なんでじゃぁあああ~~~~~~~~~~~~~~!」
と、地面に剣を叩き付けるのはカルラだ。
彼女は近くで跳ねるスライムを指さし、フレイへと言ってくる。
「我は元魔王なのじゃ! どうして、スライムと戦わないといけないのじゃ!?」
「それって、魔王だから魔物とは戦いたくないってこと?」
「ちっがうのじゃ! 魔物なんてどうでもいいのじゃ! あいつらは我がピンチになったら逃げたのじゃ! しかも、捕まっても助けようとしないクソなのじゃ!」
と、狐尻尾をぶんぶんカルラ。
彼女はジタバタ、フレイへと言葉を続けてくる。
「むしろ我、魔物は嫌いじゃ! ぶっ殺してやりたいのじゃ!」
「じゃあなんで嫌なの?」
「決まってるのじゃ! 我が今更、こんな雑魚と戦う必要性がわからんのじゃ!」
「このスライムが雑魚?」
「雑魚じゃ!」
「……今のカルラ、このスライム二体くらい来たら、絶対に負けるよ」
「…………」
と、途端ピタリと静止するカルラ。
ショックに違いないが、別に大げさに言ったわけではない。
理由は簡単だ。
魔王だった際のカルラ。
彼女の戦闘スタイルは完全魔法特化。
近距離も、遠距離も。
その全てを魔法で捌き、隙あらば火力で押し切るタイプ。
カルラの魔法操術はたしかに凄まじかった。
単純な技量のみで測るのならば。
彼女の技量は、当時のフレイを完全に上回っていた。
となれば。
「す、スライムに我が負けるじゃと!? 我の技術を甘く見るななのじゃ! レベル下がっても、我は強い!」
と、カルラが言ってくるのも、仕方のないことだ。
だが……と、フレイは彼女へと言う。
「まぁ僕のせいだけどさ、カルラ魔力ないよね?」
「はっ!」
「カルラは魔法主体から、剣主体のスタイルに切り替えなきゃだよね?」
「うっ!」
「そもそも、カルラがいったんだよね? これからは最強剣士として歩むって」
「…………」
要するにこうだ。
カルラはレベルも低ければ、戦闘経験も低い。
なんせ、彼女の剣術は相当に低次元だ。
フレイはスライムを指さした後。
もう一度、カルラへと言うのだった。
「危なくなったら助けるから、スライム戦……いってみようか」