第二章 何もかも奪われた勇者②
「…………」
食事が運ばれた回数は、さっきので二百回。
時間の感覚がバカになっているため、これが何日目かはわからない。
(一日二食だとしたら、これで百日目……か)
毎日毎日、何も変化がない。
誰かが助けに来ることも、当然ない。
あの男が言った通り、もう勇者フレイのことなど。
誰一人として、話にあげない平和な世界が続いてる違いない。
「…………」
心がざわざわする。
人々が幸せそうに過ごしている姿。
それを想像すると、目の前が真っ赤に――。
『くくっ、それは殺意じゃな』
ありえない。
フレイは人々を救うために魔王と戦った。
にもかかわらず、救った人々に殺意を抱くなど。
(あるわけがない……僕は今も変わらず勇者だ。もし本当に、これで世界が平和になるのなら……僕は犠牲になっても構わない)
仲間達が犠牲になったのも、仕方がないことなのかもしれない。
もちろん、彼女達には生きていて欲しかったが。
『たった二百日で、随分と卑屈になったのう』
卑屈になどなっていない。
ただ、これはそういうものかもしれない。
そう悟っただけだ。
『いや、どう考えても卑屈じゃろ……まぁ、おぬしが惨めに苦しんでいるのは、楽しくていいがの』
と、ここでフレイはとあることに気がつく。
それは――。
(時々聞こえるこの幻聴……どっかで聞いたことある声だな。どこで聞いたのだったか……たしか)
『なんじゃ? 幻聴だと思っていたのか? というか、魔王である我の声を、おぬしはもう忘れたのか?』
そうだ。
これはたしかに、魔王カルラの声にそっくりで――。
「っ、魔王!?」
と、フレイは立ち上がり、周囲を見回す。
しかし、そこには誰もいない。
いったい、カルラの声はどこから聞こえてくるのか。
と、フレイがそんな事を考えていると。
『おぬしの二つ隣の牢からなのじゃ』
聞こえてくるのは、そんなカルラの声。
フレイはそんな彼女へと言う。
「ありえない。お前の魔力精製器官は、僕が破壊した。魔力は練れなないはずだ」
『これは魔法で語りかけているのではないのじゃ。我が今使っているのは、狐娘族の固有スキル《念話》……使用するのに魔力は使わないのじゃ。まぁ、使うと疲れるがの』
「本当に、魔王……なのか? どうして僕にコンタクトを取って来る?」
『ん、なぁに。お互いまともな話相手がおらんじゃろ? これから一生ここで過ごすんじゃ……昔のことは忘れて、仲よくせんかの?』
などと、言ってくるカルラ。
彼女は最後に、フレイへと続けてくるのだった。
『それに何だかんだ。おぬしは我の命を奪いはしなかった……そのことだけは、感謝しているのじゃよ?』