第二十五話 VS巨大トレント②
巨大トレントが、こうも簡単に態勢を崩した理由。
それは簡単だ。
「フレイよ、おぬしの狙いはこれでよいのじゃろ!?」
と、聞こえてくるカルラの声。
きっと、彼女はフレイの考えを、より深く理解していたに違いない。
すなわち。
(トレントの巨体じゃ、一つ一つの斬撃はたいして効かない)
だから、フレイは同じ個所――厳密にはややずらした個所に攻撃をしたのだ。
これにより、木を切り倒す際の――受け口を作る要領で、奴の足を深く刻んだのだ。
いくら巨大でも。
両足同時にこれをやられれば、体勢を崩すに決まっている。
となれば、あとするべきことは一つ。
(コアを破壊して、僕達の勝利だ!)
フレイは即座に、巨大トレントの足を駆け上っていく。
目指す場所は当然、奴の腹部。
そんな事を考えている間にも。
フレイは目的の場所へとたどり着く。
すると。
「むっ! 我の方が先だと思ってたのじゃ!」
反対側から現れたのは、カルラだ。
きっと、フレイと同時に巨大トレントを登ってきたに違いない。
そんな彼女は駆け出しながら、フレイへと言ってくる。
「たどり着いたのは同時だったが、止めを刺すのは我の方が先じゃ!」
「別に勝負してるわけじゃないけどさ……負けるつもりはないよ」
「くはははっ! それでこそフレイじゃ!」
と、更に速度を速めるカルラ。
ようするに、完全に出遅れた。
「っ!」
フレイは全力で駆けだし、巨大トレントの腹部中央を目指す。
しかし、最初の出遅れが痛すぎる。
(ダメだ――やっぱり、素の運動能力はカルラの方が高い!)
追いつけない。
そんな事を考えている間にも。
「我の――最強剣士カルラの勝利じゃぁああああああああ~~~~~~!」
と、カルラが巨大トレントの腹部へ、剣を突きたててしまう。
だが。
…………。
………………。
……………………。
「なんじゃ!? このトレント、どうしてまだ動いているのじゃ!」
と、見るからに動揺した様子のカルラ。
フレイはこの瞬間、気がつく。
(まさか……これがこの巨大トレントの特性?)
通常、トレントのコアはその大きさに応じて変わる。
よって、巨大トレントのコアも相応に大きい。
と、先ほどまでは思っていた。
だが、この巨大トレントのコアは、小さい可能性がある。
でなければ、先のカルラの一撃で死んでいるはずなのだから。
(この膨らんだ腹の下にある小さなコア。それを狙うとなると厄介だな……強固な鎧に守られているようなものだ)
と、常人なら思うに違いない。
「《聖装顕現》!」
同時、フレイの手に現れるのは武器。
消滅の力を持つ、漆黒の大剣だ。
「あ、ずっこいのじゃ! それは我の力じゃ!」
と、言ってくるカルラ。
フレイはそんな彼女へと言う。
「まぁ、本質は勝負じゃないし……安全に勝つに越したことないでしょ?」
言って、フレイは剣を軽く、巨大トレントの腹へと突き立てる。
すると、抉れるように円形に消滅する奴の腹。
そこに現れたのは――。
「やっぱり、大分小さなコアだな……なんにせよ、これで僕達の勝ちだ」
と、フレイは短剣を構える。
そして、コアへと勢いよく振り下ろすのだった。