第一章 何もかも奪われた勇者
「……何が、起きているんだ」
かつて、世界の半分を消滅させた魔王カルラ。
奴が支配する魔界――魔王城。
フレイは長い旅の末、そこでカルラとの戦いに臨んだ。
そして、フレイは仲間達と共に、カルラへ致命傷を与えた。
カルラの魔力精製器官に、甚大なダメージを与えることに成功したのだ。
これにより、奴は魔力の一切を今後一生使うことが出来なくなった。
カルラがかつて世界の半分を消滅させた固有スキル《滅界》。
これには、大量の魔力を使用することが判明している。
つまり。
フレイはカルラの脅威を、完全に無力化したのだ。
(僕は……僕達は、世界を救ったんだ)
勇者として、仲間達と共に戦った。
勇者として、魔王を打倒した。
結果、どうなった?
「なんで……なんでこうなった?」
あの時――魔王を倒した次の瞬間。
聞こえてきたのは、仲間達の悲鳴。
振り返れば、何故か共に戦った人間達が、仲間に矢を放っていた。
普段の彼女達なら、簡単にやられはしなかった。
しかし、あの時はみんなボロボロだったのだ。
(なすすべもなく仲間達は殺された……僕も気がついたら、気絶させられて)
次に目が覚めた時、こうしてここに居た。
大罪人を閉じ込める罪人の塔――その遥か地下にある牢。
おまけに。
(これ、なんだよ……)
と、フレイは水たまりを見る。
そこに写るのは、フレイの顔のはずなのに、見たこともない顔だ。
顔を変えられたのだ。
気絶している間に、魔法と手術で。
それだけじゃない。
(体から力を感じない……レベルを剥奪されてる)
と、フレイがそんな事を考えた。
その時。
「おい、食事だ」
と、牢の番をしているに違いない男。
彼がこちらへと近づいて来る。
フレイはそんな彼へと言う。
「これは、これはどういうことですか!? どうして、僕の仲間達は殺されたんですか!? どうして、どうして僕はこんなところに――」
「…………」
「話を聞いてください! 顔は変えられていますけど、僕は勇者で――」
「うるせぇな、知ってるよ。魔王を倒した勇者、フレイ様だろ?」
一瞬、フレイは何も考えられなくなる。
理由は簡単だ。
(そこまで知っているなら、どうして――)
「まぁ、可哀想だとは思うけどよ。おまえ、王に嫌われてんだよ」
と、言ってくるのは男。
彼はフレイへと言葉を続けてくる。
「おまえが魔王を倒して、おまえが凱旋したらさ、地位や名声は一気におまえのものになる。それを王は嫌ったんだよ……だから、おまえは魔王と相打ちで死んだことになった」
「そんな、くだらない事のために僕の仲間を?」
「おまえを殺さなかったのは、せめての感謝の印ってやつだろ」
「こんなこと、許されるわけがない……国民は絶対に黙ってない。いつか、誰かが絶対にこれを暴いてくれ――」
「いや、くくっ」
と、なにかおかしそうな様子の男。
彼はフレイへと言ってくるのだった。
「国民はもう誰もおまえの事を気にしてねぇよ。みんな平和になれば、誰が居なくなろうとそれでいいのさ」




