第十五話 初めての敗北
やりましたね、勝利ですよカルラさん!
やりましたね、嬉しそうですねカルラさん!
とまぁ、その勢いはどこに行ったのか。
「あ、ちょっ――フレイ! フレイこれ! これなんとかするのじゃ!」
と、言ってくるのはカルラだ。
現在、彼女はスライムの亜種――スライムジェルに捕食されている真っ最中だ。
「…………」
「何を黙って見ているのじゃ! あぁああああああ! 尻尾! 我の狐尻尾に触るななのじゃぁああああああああああああっ!」
と、ジタバタしているカルラ。
さてさて。
スライムジェルは、スライムよりも弱い魔物。
このまま放置しても、カルラがやられることなど、まずないと断言できる。
ではどうして、そもそもこんな状態になったのか。
(なんで僕の忠告を無視して、スライムジェルに突っ込むかな……)
スライムジェルにはたった一つ、厄介な特性があるのだ。
それすなわち――物理無効化。
見ての通り、スライムジェルは完全な液体生物だ。
よって、剣などは通用しない……にもかかわらず。
『くははははははっ! フレイよ、おぬしはアホなのじゃ! いくらなんでも心配し過ぎじゃ! 見ているがいい! 我が剣術にて、スライムジェルを微塵に切り刻んでやるのじゃ!』
以上、一分前のカルラさんの言葉だ。
もはやため息しかでない。
「こ、今度は狐耳じゃ! スライムジェルが我の耳を狙っているのじゃ! これフレイ、早くなんとかするのじゃ!」
と、言ってくるカルラ。
今まで呆れたショックから、うっかり立ち尽くしていたが。
さすがにそろそろ動いた方がいい。
(とはいえ、現状の僕達じゃスライムジェルを倒すのは無理かな)
フレイもカルラも魔法を覚えていない。
後者に至っては、覚えても使用不能なのだから。
(ここで《滅界》を使うのも、かなりもったいないし……うん、やっぱりあれかな)
と、フレイは短剣を引き抜く。
そして。
カルラを捕食しているスライムジェル。
その真横に、全力で短剣を打ち付ける。
直後。
「な、なんじゃ!? スライムジェルが逃げていったのじゃ!」
と、そんなカルラの言葉。
フレイはそんな彼女へと言う。
「火花を起こしたんだよ――スライムジェルは物理無敵な代わりに、それ以外に異常に弱い。そして、それ以外を異常に怖がる性質がある」
「な、なんと!」
と、狐耳をぴこぴこカルラ。
さすがの魔王とはいえ、スライムジェルが火花にすらビビることは、知らなかったに違いない。
もっとも。
知らなくても無理はない。
大半の熟練冒険者ですら、スライムジェルがそこまでビビりなのは知らないのだから。
(実際、僕がこれを知っていたのも、偶然仲間が発見しただけだしね)
と、フレイはそんな事を考えたのち。
カルラへ手を差し出し、そのまま言うのだった。
「なんにせよ、スライムジェルを倒したわけじゃない。戻ってこないうちに、さきに進もう」