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その69
(その69)
風が吹く。
暗闇の向こうから。
対峙するものが確かに其処に居る。
老人にはそれが直感として分かっていた。それは銃を構えて見つめるこの裂け道の闇の向こうに静かに蹲っている。
――答えなきもの…
答えが無いこと、それが自らの正体をさらしているとも知らず暗闇は沈黙する。
我が家を出てからずっと自分を追いかけてきている視線。
しかしそれが何かだと分かっていたとしても口にすべきではない。
老人の視線が鋭さを増す。
しかしその瞳の奥を今覗くものが居たとしたらその奥底に潜む優しさに驚くかもしれない。
優しさに寄りそうその姿形…
――それは自分の中にある期待なのだ
何に対する期待か?
ふと口元に微笑を浮かべた。
――その刹那
引き金を引く指に力が籠り、激しい轟音が裂け道へ響き弾丸が吹き込む風を切り裂き、やがて何かを撃ち落とした。
老人は聞こえるように大きな声で言った。
「吸血蝙蝠だったか」
そう、暗闇に言い放つや老人は銃を下げて、暗闇に背を向けた。