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竜と老人  作者: 日南田 ウヲ
61/122

その61

(その61)




 羊皮紙を広げて声高に言う。

「貴殿はルーン渓谷の最上にある『鷲の嘴』でつり橋を渡る荷駄の警護をするように」

 ローがそれを丸めるとロビーの方を見てにやりと笑った。

 茶色のマントから腕を出して、老人が読み上げた羊皮紙を受け取ると黙読する。

「成程なぁ。ちゃんと国王の印がある。王様、直々のもんだな」

 読み上げた羊皮紙をくるりと巻くと、それをローに手渡す。それを老人が懐にしまう。

「準備なんぞ、この書を貰ってからいつでもできてるわい」

 言ってから肩に麻ひもでくるまった大きな筒を背負った。腰には幾つかの小さな袋を下げている。

 その背をミライが見つめる。

 背に背負われた物、それはおそらくあの暖炉の中に仕舞われた大きな銃、見れば砲のような巨大な何かを撃ち落とすためのあの銃。

 それを軽々と背負い、音を立てて足の装具を叩く。

「ミライ、こちらの方はガタが来ていないだろうな。背負った奴は毎日、儂が手入れをして問題ないが」

 ミライは軽く顎を引く。

「そっちの方も問題ないさ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 それを聞くと眉を動かして張り出した顎を撫でながら、にやりと笑った。それから少しだけ寂しそうな表情をして老人は孫娘を見た。

「シリィ…」

 老人の言葉の響きに僅かな躊躇いがあるのが分かる。しかし孫娘はそれについて何も気にすることなく笑った。

 武人の出立の門出に涙など禁物だ。それは戦場で武人に思いもしない躊躇いを持たせ、それが死を招くことがあるからだ。だから思いっきり笑顔で言った。

「大丈夫。心配しないで。必ず戻って来て」

 ローは何言わず無言で頷いた。

 昨晩、夜の訪問者がやって来て全てを明らかにして去った。

 何もこれ以上語らうことは無かった。

 時が来たのである。


 ――互いに分かったものを一つにする時が。


 ロビーは別れに耐えきれないのか被った帽子の鍔を下げて俯いている。そのロビーの肩をミライが叩く。

「ロビー気を付けて行ってくれ」

 友人の言葉にこちらも無言で頷く。頷くと数歩歩き出す。歩き出しながら老人に言った。

「それじゃ行こうか、ロー。今から行けば丁度砦を抜ける一番荷駄隊に間に合うだろう」

 その声に老人も頷く。

 頷きながらミライをじっと見る。その眼差しの奥に潜む言葉の意味をミライは噛みしめる。

 老人はくるりと背を向けるとロビーの後を続くように歩き出した。大地を踏む装具で老人の肩が揺れている。

 すると揺れる肩から手が伸びて、やがて二度揺れた。

 それが任務に向かう老武人の家族への別れの合図だった。


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