その52
(その52)
翌朝、夜の訪問者は静かに大きな荷物を背負ってローの家を去って行った。
去り行こうとする間際、友人の背にローは言葉をかけた。
「トネリ、その子をこれからどうする?」
一呼吸の間を置いて、トネリは振り返りローに向かって言った。
「俺達夫婦に子はいない。だが子として育てるにはいささか年も離れている。だから孫として育てるさ。まぁ集落の連中は気付くだろうが、そこは互いに何も問わぬのが、この山岳に生きる者の暗黙の掟」
「成程…」
それにトネリが頷く。
「この子の手足が大きくなれば、俺の技術を教えるさ」
「具師にするか?」
「そうだな」
トネリの言葉にローはふむと小さく頷いた。それから左足の装具を叩く。
「そうすれば、いずれかの時に俺の装具を直してもらわねばならないな。お前が死んだら誰が直してくれるのかと今も心配だからな」
言うや豪快に笑った。トネリも釣られるように笑う。笑いながらトネリがローの背を軽く叩いた。
「昨夜は世話になった。この子の為に貴重なアルゴル山羊の乳まで貰って」
「何、良いさ。気にするな」
それから手を出す。それをトネリが握る。暫く何も言わず無言で互いを見つめ合う時が流れた。
「…、帰ってこよう。いつかリーズも」
「ああ、そう思っているし、そう信じている。俺の優しい娘だ。年老いた父を残してそのまま命を蹴散らすことはあるまい」
トネリはそれ以上何も言わず、再び背に手を回すと、フードを深々と被り、杖を大地に立てて二、三回突いた。
別れの合図だった。
それからゆっくりとローに背を向けると静かに歩き出した。
ローはその姿をいつまでもいつもでも見つめていたが、やがて友人の姿が静かに森の奥に消えると自らも姿を消すように家の奥へと扉を開けて姿を消した。




