その37
(その37)
ミライは手を広げては握ったりをしている。
――自分があの時掴んだものは?
そう思うと若者を振り返った。若者は鷹の羽の帽子を目深く被り、何も言わなかった。
そう確かに自分は若者と共に夜の世界を飛んだ。
その時自分は空飛ぶ自分の見知らぬ獣の背に触れ、その毛を握ったのだ。
こともあろうに害を成す害鳥コカトリスとも想像し、恐れたというのに。
それはもしや、いやそうなのだ、自分はこの目の前にいる若者、ベルドルが竜に変わったその背に跨り空を飛んだのだ。
だからこそ、変わったその姿を見られたくない彼は自分に言ったのではないか?
――目を閉じるようにと。
だが手を閉じたりしているのはそれだけじゃない。
――竜人族の『忌み児』
その言葉を何故か知っているような気がしてならない。どうしてか?
目の奥が熱くなる。その言葉を聞いた時、瞼の奥で得も言われぬ熱量を感じたのだ。
ミライは顔を上げて、老人を見た。
老人は驚きながら寄りかかるシリィの頬を優しく撫でていたが、ミライの視線に気づいたのか、目を細めると向き直り言った。
「ミライ…、気が付かぬことではあるまい。お前の祖父も良く話していたであろう。具師たるお前の祖父は装具だけの事に通じていたわけではない。この世界のあらゆる伝承に通じていたはずだ」
――祖父、
ミライは何かを感じて、記憶を探った。そうだ祖父だ。祖父が自分に話していたのだ。それが何であったか?
懸命に思い出そうとするミライに老人が言った。
「まだ話は終わってはいない。さて、続けていいかな」