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竜と老人  作者: 日南田 ウヲ
116/122

その116

(116)


 もし、

 運命というものが存在するのならば、

 人は初めてその結果を見て、時の輪廻と因果に驚くに違いない。


 それはあくまで『若しも』である。


 運命にはまるで必然ともいうべき長い時に横たわる蛇が居て、突如鎌首を擡げて、その迫りくる何かを吞み込もうとする瞬間があるのだとすれば、それが今この瞬間であると誰もが思うだろう。

 ミライは自分に迫りくる運命を正にこの瞬間、大蛇の様に吞み込んだのだ。

 迫りくる竜を蛇が大きな口を広げて飲み込む、それは過ぎ去った過去を未来が飲み込んだ瞬間だった。

 翼竜(ワイバーン)はまるで運命に引きずれるように誰かが指し向けた重力に落ちたと言って良いのかもしれない。

 躰を纏う鱗は突如、変化した。それは自分の意思とは関係なく訪れた変化。

 この世界には叡智を越えた謎があるのかもしれない。

 肉体を支配する神経の全てが突如訪れた生物的な変化を塞ぐことができないという謎。

 そしてそれは誰もの肉体を支配する力。

 シリィには見えた。

 突如、巨竜に起きたその変化を。

 それは、誰もが忌む力。

 だが、それを今、自分達は僅かな希望として掛けた。

 忌まわしき力であっても。

 それが自分。の人生をかけて愛すべき人に備わる力だとしても。

 振り返ったシリィは叫ぶ。


 ――祖父に。

 そして父に。


 勿論、二人の戦士はその瞬間を逃さない。

 巨竜に何が起きたのか?

 迫りくる巨竜が何故石化して突如動けなくなったのかという理由をこの瞬間、聞く時間はない。

 此処は戦場。

 目前に迫る現実に自分達が成すべきことをすべきなのだ。

 好機こそ逃すべきで気ではない。


 全ては生き延びて問えばいい。

 それこそ死者に問うべき声は無く、生者のみにしか問うべき時も言葉も無いのだ。


 ローは石化して空から墜落すべき巨竜へ狙いを定めた。

 その眼前を飛翔する飛影。


 ローは引き金を引いた。

 その瞬間、全ての時間という重荷がまるで一発の銃弾に乗り移り、激しい爆発音と共に放たれた。

 空気を巻き込み回転して巨竜へ放たれた銃弾。まるでその空気を巻き込む回転は自分の長き時間を紡いで巻き上げた時の輪廻の様で、それは美しい軌道を描き、やがて石化して動けなくなった巨竜に被弾した。


 その瞬間、巨竜の咆哮が響いた。

 ローの放った弾丸は石化した巨竜の心臓を見事貫いた。

 だが、巨竜はその生命力をまだ失っていなかった。被弾した肉体に残る力を使いき切ろうとして再び空へと上昇しようとした。

 しかしその瞬間。

 空から雷のような衝撃が巨竜の脳天を着いた、。

 ミライは

 シリィは

 ローは

 見た。


 ベルドルンの細剣(レイピア)が巨竜の脳天を貫き、顎まで貫通したのを。


 それで巨竜は全ての生命活動を終えたと言っていい。

 巨大な翼を虚しく弱弱しく二、三度はためかすと何かを探すようにして首を巡らせ、やがて峡谷の底へと静かに落ちて行った。


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